世界的に活躍するヴィデオ・アートの第一人者、ビル・ヴィオラ(1951年ニューヨーク生まれ)の全貌を紹介する史上初の大規模な個展を森美術館にて開催します。
ビル・ヴィオラはヴィデオ・アートの創始者ナム・ジュン・パイク以降、世界のヴィデオ・アートを牽引し続けるアーティストです。ヴィオラは1995年のヴェネツィア・ビエンナーレでアメリカ館を代表、1997年からニューヨークのホイットニ-美術館ほかを巡回した回顧展では記録的な入場者数を樹立、また2003年ロザンゼルスのJ.ポール・ゲッティ美術館企画の世界巡回個展「受難(The Passions)」では各地で大きな反響を呼ぶなどめざましい活躍を続けています。本展はこれらの二大展覧会を集約する大型展となり、長年にわたる活動から生み出された作品を系統的に紹介することで、その魅力をあますことなく伝えるものです。“ヴィオラ芸術の全貌”を紹介する、最も網羅的な回顧展といえるでしょう。
1970年代、ヴィオラは創世記のヴィデオ・アートと出会い、テ-プ作品を中心に斬新な感覚を示します。80年代からは特にプロジェクタ-や巨大スクリーン、コンピューターによる映像と音で観客を包み込むヴィデオ/サウンド・インスタレーションを展開しはじめます。観客は映像・音・空間が一体となった“装置”を通じて、時にショッキングな、時に瞑想的な世界を体験をすることになります。さらに2000年からはプラズマや液晶モニターを駆使し、苦しみ、悲しみ、喜び、怒りなど人間の基本的な感情をテーマにした「動く絵画」とでもいうべき作品を発表しています。時代ごとに最新のテクノロジーを使いながら、ヴィオラが取り上げるのは命、誕生、死、再生、感情といった人間の根源に関わるテーマです。神秘的かつ壮大、あるいは幻想と現実の狭間の「夢」のような作品を通して観客は生や死について考え、自身の存在や生き方を見直す時間を過ごす。それが単なるテクノロジー・アートではなく、普遍的な感動を人びとに与えるヴィオラ芸術の魅力です。出品作は90年代以降を中心に、過去25年間に制作された16点の作品で構成。森美術館と朝日新聞社主催で開催する本展は、兵庫県立美術館(会期2007年1月23日- 3月21日)に巡回予定です。
ヴィオラが紡いだ日本の“夢”
日本で生まれた「HATSU-YUME」
ヴィオラは日本に長期滞在したアーティストの中で、最も世界的に活躍をとげている一人といえるでしょ�。1980年代に1年半の間、日本に滞在し、禅思想や能などの伝統芸能に親しむ一方、新作も制作しました。本展のタイトルである「はつゆめ」は、滞在中の1981年に日本の文化と風景をヴィオラの視点で紡ぎ出したヴィデオ作品のタイトル《はつゆめ》(HATSU-YUME)に由来しています。また、夢と現実を行き来するかのようなヴィオラ作品の象徴でもあるのです。日本へのヴィオラの想いを今につなぐこの《はつゆめ》は、会期中に特別上映を予定しています。