佐賀市にある財団法人鍋島報效会に移管された鍋島家伝来の膨大な資料は、附設の鍋島徴古館において平成十年から順次展示紹介されてきましたが、佐賀の地を離れて鍋島家の伝来品のみを紹介する展示は今回が初めてとなります。
大名家から侯爵家として受け継がれてきた鍋島家の伝来品は、幾度かの災禍に遭いながらも家格に相応しい品格と膨大な数量を維持しており、文化の牽引をしてきた一家の生活文化の格と広がりを示しうる第一級の作品群です。とりわけ染織品は、江戸時代の武家・公家それぞれの伝統と格式を大切に保ちつつ、美しく調和させた大名家時代の作品と、維新後の欧風化の流れの中で、旧来の日本の伝統の上に、斬新な意匠を創造した侯爵家時代の服飾類とが、気品に満ちた生活の色彩を伝えています。そして、常に時代を先取りして創作されたこれら名品の数々は、今なお精彩を失わず気高く存在しています。また、伝来の能装束は、他に類例をみない秀逸な意匠作品ばかりです。惜しむらくは、災禍の歴史の中で、能装束の華である唐織一式が消失して伝存していないことですが、その華麗さはさぞや、と想像させるに難くない美しく品格ある縫箔や、格調高い広袖類が多数伝えられており、鍋島家の能楽文化の高さが偲ばれます。
今回は、国立能楽堂及び泉屋博古館分館、それぞれの会場の特質に併せて、「大名家から侯爵家へ」と時代の変節を超えて受け継がれてきた、華麗な染織品を中心に、時代を映す調度類を加えた伝来の優品、約300点を同時に展示公開いたします。
鍋島家の歴史と重なりながら踏襲されてきた、武家・公家そして華族の服飾文化の歴史を辿りながら、伝統ある生活文化の華をご堪能いただきたいと思います。