ジュリアードレースは、宝石のように美しく価値があるという意味で名づけられた、住田啓子(1948-)がオリジナルに完成させた技法です。膨大な時間と手間が必要で、かぎ針で一目ずつ絹糸を編み、花や葉から幾何学的な形まで、様々なモチーフを作り、それを針で繋いでいきます。ジュリアードレースは、ニットデザイナーの母・平田良子(1920-)の仕事がヒントになっていますが、母がモチーフを繋ぐという仕事であったのに対し、モチーフをベースに「空間を糸で綴る」世界に発展させ、これを自分の手法として確立しました。
住田はジュリアードレースについて「かぎ針は鉛筆。作りたい形にどんどん描く」といいます。事実、最初は何もない空間に大きな枠を作りはじめたとき、そこはキャンバスとなるのです。ジュリアードレースは、他のレースやニット(編物)の技法と大きく異なる点があります。一つは、元図がないこと。もう一つはどんな技法、デザインでも盛り込んでいいことです。そのため製作中に完成予想がどんどん修正され、即興の技も組み込まれます。「糸を編む・結ぶ・綴る」自由な発想と手仕事から生まれるため、2つとして同じ作品はありません。作品は小さなブローチから大きなタペストリーそして屏風まで、多岐にわたります。この自由さも、住田の特徴です。住田自身の「飾り衿は手芸の作品として、タペストリーは工芸の作品として紹介される。私は同じことをしているのに、区分けされるの」という言葉に、住田の作品が従来のジャンルの壁を超えていることが端的に示されています。
住田啓子は、ジュリアードレースを屏風に仕立てています。これは「紅仕立て」という装丁で、背景の色や和紙にこだわりあつらえた様式は、住田のオリジナルです。レースの生み出す陰影も作品の重要な要素として考え、背面に立てている和紙とわずかな距離をとっています。
住田は大学卒業後、母の主催する編物学院で講師を務めます。これを契機にニットを本格的に学び、自らも作品制作を始めます。その後ジュリアードレースを完成させ、1997年に初めての個展を銀座のミキモトホールで開催し、その後も首都圏を中心に作品を発表しています。現在は、作品制作に励む一方、テキストに残せないジュリアードレースを伝えるために、研修会「連花」を主宰し、ヴォーグ学園の教室でもこの技法を伝えています。
本展では関西初公開となる住田啓子のジュリア�ドレース約40点を本館、新館で展示します。初公開となるランプシェードも展示いたします。また新館では、住田が女性作家であることにちなみ、アサヒビール社や当館が所有する女性作家(シュザンヌ・バラドン、ルーシー・リーなど)の作品を展示いたします。モネの『睡蓮』もご覧頂けます。
本館2階には、当館収蔵の作品を展示します。河井寛次郎、濱田庄司などの作品を中心にご覧いただきます。