豊田市美術館で「モネ 睡蓮のとき」展が始まりました。クロード・モネは、印象派の画家として、幅広い年代に親しまれ、これまでに数多くの展覧会で、その作品が紹介されてきました。
本展では、晩年のモネが描いた大画面の「睡蓮」を中心に、日本初公開を含む、およそ50点の作品が紹介されます。特に、第3章の「大装飾画への道」の展示は、部屋全体を取り囲むように展示された「睡蓮」の迫力に溺れそうな感覚になります。
もうすぐ夏休みが始まります。美術館で「睡蓮」に囲まれ、涼しい気分を楽しみませんか。

会場入口
第1章 セーヌ川から睡蓮の池へ
水遊びをするボートや、大きな川に架かる橋を渡る蒸気機関車などの作品が並ぶ中でも注目したいのは、《ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出》です。短い時間のうちに、どんどんと色味が変わる朝方の空気感を淡い色合いで表現し、中央部の水面と薄く靄がかかったような画面が、湿っぽい空気感を強めています。
モネの「日の出」と聞くと、ル・アーブルの港の風景を描いた《印象・日の出》を連想しますが、それ以外にも良い作品があるのですね。ちなみに、本作は日本初公開だそうです。

《ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出》1897、マルモッタン・モネ美術館、パリ(エフリュシ・ド・ロチルド邸、サン-ジャン:キャップフェラより寄託)
第2章 水と花々の装飾
左右に並んだ《アガパンサス》と《睡蓮》をみると、境目の構図と色合いに類似性が見られます。まるで1枚の作品を左右に切り分け、2枚にしたような画面の連続性があります。確か、偽物の美術作品を取り扱う美術画廊のエピソードを描いた日本のコミックに、よく似た話があったと思います。

左から 《アガパンサス》1914-1917頃、《睡蓮》1914-1917頃 どちらもマルモッタン・モネ美術館、パリ
この事例の他にも、左右に並んだ作品を見比べると、いろいろと発見があり、楽しい展示になっています。

左から 《藤》1919-1920頃、《藤》1919-1920頃 どちらもマルモッタン・モネ美術館、パリ
第3章 大装飾画への道
この展示室は、観客を取り巻くように大画面の《睡蓮》を飾り巡らせています。左右の壁面で画面の明るさが異なるので、朝方から夕方までの時間の経過を表現しているようです。 本展のハイライトというべき展示で、この展示室だけは撮影が可能です。
観客を取り巻くような展示と言えば、各地で人気のイマーシブ・ミュージアムの鑑賞も、本章の鑑賞体験に近いと思います。

左から《睡蓮》1916-1919年頃、《睡蓮》1916-1919年頃、《睡蓮》1914-1917年頃 どちらもマルモッタン・モネ美術館、パリ
本展監修のシルヴィ・カルリエ氏の会場解説でも、本章では特に熱意のこもったお話がありました。

会場説明の様子 シルヴィ・カルリエ氏(マルモッタン・モネ美術館、パリ コレクション部長/本展監修者)、石田大祐氏(豊田市美術館、本展担当学芸員)
特設ショップにて
本展は相当な混雑が予想されます。また、各種グッズも「お一人様1点」となっているものがあります。お目当てのグッズがある方は、できるだけ早めに、できれば平日にお出かけいただくと良いと思います。

特設ショップの様子

特設ショップの様子
コレクション展 VISION 星と星図
今年で開館30周年を迎える豊田市美術館では、今年度を3期に分け、本美術館を特徴づけるコレクションを紹介します。第1期は「星図Ⅰ:社会と、世界と」と題し、戦後イタリアのアルテ・ポーヴェラの作品や、戦後ドイツのアンゼルム・キーファーの作品などから、展示が始まります。

コレクション展入口
鉄、ガラス、鉛、竹、木、石、ネオン管などで組み立てられたマリオ・メルツの廃墟のような作品越しに、アンゼルム・キーファーの鉛で覆われた作品を眺めると、第二次世界大戦の荒廃と、そこからの復興、それでもなお解消できない社会問題など、ヨーロッパの戦後の歴史が垣間見えます。
アンゼルム・キーファーといえば、3月末から6月中旬まで、京都の元離宮二条城で大規模な個展(アンゼルム・キーファー:ソラリス展)が開催されていました。ご覧になった方も多いのではないかと思います。

手前から マリオ・メルツ《明晰と不分明/不分明と明晰》1988(部分)、アンゼルム・キーファー《飛べ!コフキコガネ》1990
その他に、ダニエル・ビュレン、奈良美智、村瀬恭子、吉本作次、田村友一郎などの作品も展示されています。
いろいろと懐かしい作品を見て回るうち、とりわけ目を惹かれたのが、モダン・デザインのコーナーです。
クラシックなデザインの扇風機や電気ポットが大量に並んでおり、タイムマシンで祖父や曽祖父の時代に舞い戻ったような気分です。

展示風景 モダン・デザイン
それ以外に、木製の椅子、スチール製の椅子なども展示され、美術作品と工業製品の境目のようなものを意識させられます。
秋から始まる第2期では、どのような作品と再会できるか、今から楽しみです。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2025年6月20日 ]