江戸末期に、長崎の出島で医師として活躍したシーボルト。彼は日本の文化や自然に魅了され、大量の資料をオランダへ送りました。なかでも1万2000点におよぶ植物は、多くの人々へ日本の植物に対する興味を広げる発端となりました。やがて「和の花」はヨーロッパの生活環境に浸透し、異国に根付いたたのです。
同じ19世紀後半は、日本の浮世絵や工芸品に描かれた植物への関心も高めました。ルネ・ラリックの作品には、日本や東洋の花々への鋭い観察眼がうかがえます。果たしてその草花の手本となったのは、書籍や店で目にする美術品だけではありませんでした。
実はシーボルトは研究だけではなく、日本の植物をヨーロッパの風土に順化させたのち、当時としては画期的なカタログによる通信販売にまで発展させたのです。ラリックが作品のモチーフにしたテッポウユリもその一つでした。シーボルトは、可憐な日本の花を自邸に咲かせたいと願う植物愛好家のニーズに応え、これを広めるきっかけを作ったのです。
本企画展ではラリックの作品について、今までにない植物学の見地からの解析も試みます。作品と実物標本、そして輸出への経緯から“植物のジャポニスム”に迫ります。
また今回の企画展では、近くの箱根町立箱根湿生花園とのコラボレーションが実現しました。ラリックの作品に登場する花たち。それらが実際に咲く姿を、箱根湿生花園では季節を追ってご案内します。徒歩10分の二つの施設を巡りながら、箱根とラリックに薫る自然の美を堪能できる展覧会です。