三重県立美術館では、開館以来三重県上野市(現伊賀市)出身の作家元永定正(1922~ )の作品収集と紹介を行ってきました。
十代の頃から漫画家を志していた元永は、郷里で洋画家濱邊萬吉に師事して油絵制作を始め、音楽やダンスなど文化活動にも関心を持つようになります。
1952年、神戸に居を移した元永は、吉原治良らが関係していた芦屋市展へ出品するようになり、吉原の知遇を得て抽象作品の制作を始めました。1955年には吉原主宰の「具体美術協会」に参加、以後元永は「具体」を活動の拠点とし、50年代後半から60年代半ばにかけて絵具をキャンバス上に流して制作した作品によって国内外での評価を固めました。
1966年にニューヨーク滞在の機会を得た元永は、アクリル絵具やエアブラシと出会って、それまでのスタイルを大きく変えました。ニューヨーク滞在以降に制作された、ユーモラスな形が登場する明るい色調の作品は、難解な抽象絵画のイメージを一新します。元永は、こうした親しみやすい作品と飾り気のない人となりによって、今日まで多くの人々から支持されてきました。また、元永は絵画制作にとどまりません。他領域の作家たちともコラボレーションを行いつつ、立体造形、絵本、パフォーマンスなど幅広い領域で活動を続け、さらに芸術文化や教育などについても積極的に発言しています。