マレーネ・ディートリッヒ、グレタ・ガルボ、ウィンザー公爵夫人をはじめ、世界中の競れびりティーを魅了し続けたマダム・グレ。彼女の名は、ドレープやプリーツを駆使した気品ある作品によって「布の彫刻家」「ドレープの魔術師」と称され、20世紀モード史上に今尚燦然と輝いています。1920年代からパリ・モード界に綺羅星のように現れたパキャン、キャロ姉妹、ヴィオネ、シャネル。ランバン、スキャパレリ、ニナ・リッチら数々の女性デザイナー(クチュリエール)、その最後の巨星といわれ、後進のデザイナーから絶大な尊敬を集めています。加えてレジオン・ド・ヌール勲章など栄誉は数えきれません。
パリの豊かなブルジュワ階級に生まれたグレは、最初はバレリーナを夢見、次に彫刻家を目指した後、家族の大反対を押し切ってデザイナーの道に進みます。1934年女友達の名前を冠したメゾン「アリックス」を創業。そして彼女を一躍有名にしたのが、1935年ロディエ社によって開発された広幅の薄い絹ジャージーをたっぷりと用いたギリシャ彫刻を彷彿させる美しきドレスでした。300もの細かいタックプリーツを重ね、布本来の性格を生かすためサン・クチュール(仕立てなしに近い服)の方法が用いられたドレスは、彼女の代表作となりました。1942年にはグレと名のり、その後も比類なき孤高な美しさを内包するドレスの発表を続けていきます。装飾を排し、卓越した技術と手法により純粋にエレガンスそのものを追求するグレの作品は、人間が創り出した英知と気品を強く感じさせます。一級の芸術の域にまで達したその作品は、今日でも時代を超えた普遍的な美しさを放ち続けています。
八木通商と阪急阪神百貨店に多大なご協力をいただき、貴重なドレス、トワル、パターン、当時の写真などで構成されています。偉大なクチュリエール、マダム・グレが追い続けた美学の神髄を知っていただく機会になるでしょう。