素描の魅力　—ゴッホから岸田劉生まで—

　‘素描こそがすべての根源(ルーツ)であり、それに費やした時間は本当にまったく無駄なしに有益なのだ’そう語ったゴッホは初期、素描にのみ専念します。とりわけミレーの描き出す農民画に深く感銘を受け、ゴッホはそれらの模写を繰り返してミレーの芸術に近づこうと試みました。その一枚《鎌で刈る人（ミレーによる）》は描線の力強さと繊細さを併せ持ち、素描の魅力をあますことなく放っています。 　また、多くの肖像画を通じて‘内なる美’を追求した岸田劉生による素描《村娘之図》、水彩《麗子洋装之像》《麗子微笑像》の画面には、油彩画に劣らぬ特異な写実性と存在感を認めることができます。そのほかマティスやドラン、シャガール、須田国太郎、藤田嗣治らの素描、水彩、パステル作品の軽快な描線はもとより、素材の可能性を存分に発揮した趣豊かな作品群を紹介し、その魅力に迫ります。 　あわせて、モネやマティス、奥村土牛、中村岳陵などの画家たちが書き綴った書簡や草稿など16点を一堂に展示します。ふだん目にする機会の稀な画家たちの筆跡を、彼らの絵画とともにお楽しみください。