関谷富貴はこれまでその存在を全く知られてこなかった画家です。しかし、1950年代に制作されたと考えられるその作品は、鮮烈な色彩とイメージが画家の内面からあふれ出してくるような力に満ちたものです。関谷富貴(せきや ふき, 1903-1969)は栃木県北部の伊王野村(現在の那須町伊王野)に生まれました。若くして両親と死別、20歳の時には兄も亡くなっています。その後、画家の関谷陽(せきや よう, 1902-1988)と結婚、晩年まで世田谷区松原に暮らしています。松原のアトリエでは、夫の陽が二科展に出品しながら絵画教室を開き、富貴は画家の夫を支えました。生前、富貴は作品を発表することは一切なく、また周囲の人にさえも制作する姿を見せることはありませんでした。ごくわずかの人々を除いて、200点近くの作品の存在そのものが知られていなかったのです。しかしその独創的な作品群には、20世紀という時代を生きた女性の内面が見事な造形表現として結実しています。この展覧会は、ほぼ完全に忘れ去られていた、いや、そもそも美術界に登場することもなかったひとりの画家の驚くべき画業を初めてご紹介するものです。今回は富貴の作品約190点と共に、夫である関谷陽の作品、陽の父親の日本画家、関谷雲崖(せきや うんがい, 1880-1968)の作品をあわせて展示します。