目黒区美術館は、2017(平成29)年11 月に開館30 周年を迎えました。
これまで当館は、近現代美術に様々な角度から焦点を当て、多様な展覧会を構成するばかりでなく、近現代美術の流れとその特徴を理解するための体系的なコレクションをも形成してきました。現在、登録作品数は、当館の収集方針である「明治以降、海外で学んだ日本人作家」や「目黒ゆかりの作家」などの油彩を中心に、素描、版画、彫刻、工芸など約2300 点を数えます。そして毎年、この多様な作品群を、新鮮なテーマを設けた所蔵作品展にて紹介しています。
今回は当館のコレクションより、1950 年代から60 年代にかけて関心が高まった抽象表現を取り上げます。丸、三角、四角…あるいは名状しがたい形状で表された作品。人や動物、風景といった、私たちが知る具体的なものから離れ、戦後、思い切って新たな表現を志向した作家たちがいました。例えば、50年代に渡米し、自身の抽象表現をさらに推し進め、日本の伝統に通じる表現に発展させた岡田謙三や、《コンポジション》つまり構成というタイトルが示すように、画面上で色や形のバランスを探った猪熊弦一郎、抑制された色彩で情景や心情を描き出すかのような赤穴宏。そして絵画ばかりではなく、この時代には、立体でも抽象表現が展開されました。「用途がある」という既存の工芸の概念を打ち破るべく、陶による自由な表現を模索した安原喜明や、生活の中に活かせる工芸を目指し、金属によってシンプルな造形を作りだした槻尾宗一。
本展では、表現方法や制作態度はそれぞれ異なるものの、具象に留まらず、抽象表現によって新たな地平を切り開こうとした作家たちの作品をご覧いただきます。そして、これら出品作の多くは、目黒界隈にアトリエや住まいを持つなど、当館とゆかりの深い作家によるものです。さまざまな抽象表現とともに、当館の30 年にわたる収集の一側面を、お楽しみいただければ幸いです。
●出品予定作家(点数)
【絵画】赤穴 宏、飯田善國、猪熊弦一郎、岡田謙三、桂 ゆき、古茂田守介、菅井 汲 、津高和一
【立体】槻尾宗一、安原喜明ほか ( 約40点)
秋岡芳夫(1920-1997)は、目黒区ゆかりの工業デザイナーです。1950 年代、戦後日本における工業デザインの黎明期に、河 潤之介、金子 至とともに、目黒区中町の自宅に<KAK(カック)> という名称のデザイン事務所を開設(1953 年)、ラジオキャビネット、カメラ、照度計など、光学機器のデザインを得意とし、数々の名品を世に送り出しました。この活気あふれる工業デザイナーグループは、急成長を遂げた日本の工業デザインの発展に大きく寄与していきます。
2011 年に開催した「DOMA 秋岡芳夫展」以降、年度末に開催している特集展示「秋岡芳夫全集」の第5 回目となる今回のテーマは、このKAK の仕事を取り上げます。3 人すべてが代表取締役であるとし、それぞれの持ち味を活かして多くのすぐれた工業製品を作り出していきました。
3 人は、生活と工業デザインのあるべき姿を常に考え、よく遊び、よく仕事をしながら、デザインに携わっていましたが、沢山のアルバムに残っているその様子は、今見ても新鮮です。本展では、秋岡・河・金子によるKAK の仕事をフォーカスし、カメラ、露出計などの光学機器から学研科学の付録に至る仕事を展示します。さらに、三人三様のキャラクターにも光をあて、河 潤之介、金子 至のユニークな人となりも、KAK 以外のプライベートな仕事を通して紹介していきます。