イランを中心にした西アジア。カシュガイ族、クルド族、バルーチ族などの遊牧民は、古来から羊毛でさまざまな織物をつくってきました。
塩袋、ギャッベ、絨毯などの染織品で、西アジア遊牧民の文化を紹介する展覧会が、たばこと塩の博物館で開催中です。
たばこと塩の博物館 入口
あまり耳慣れない「ギャッベ」は、遊牧民絨毯によく似た毛足(パイル)のある織物です。
冒頭の一点のみ、「さわってもよい」ギャッベ。南イラン、カシュガイ族による伝統的なギャッベの実物です。
「さわれるギャッベ」
展示は種類別の構成。冒頭で紹介されているのは塩袋で、家畜の食用としての塩を入れます。
家畜の餌である植物には塩がほとんど含まれないため、家畜は本能的に塩を欲しがります。人が塩を与えることで、ヒモでつながなくても、家畜は人の近くにいるようになるのです。
家畜が頭を入れられないように、塩袋の口は凸形にするなっています。
塩袋
展覧会の中心となるギャッベは、自由な発想による素朴な味わいが特徴。自分たちで使うものなので、多少の乱れは気にしないおおらかさもあります。
そのデザインには猛獣など目の前にいない動物が表現されているものもあり、憧れの想いが表現されているように感じられます。
ギャッベ
ギャッベに対して遊牧民絨毯は、強靭な羊毛を用いた重厚な作品もあります。遊牧生活ではテント内の敷物に用いて暖をとるなど、毛足のある絨毯は必須の家財道具でした。
長く使える絨毯は財産になり、売買されることもありました。ただ、展示されているものは、事前に決めた模様どおりに精密に織る都市の工房絨毯(いわゆるペルシャ絨毯)とは異なります。
遊牧民絨毯
キリムは、羊毛糸で織られた毛足のない平織物。敷物のほか、間仕切りや覆い布、壁かざりなどに広く使われます。
なお、キリムはトルコ語で、イランではギリム(ゲリム)と呼ばれます。
キリム
鞍袋は、ロバや馬の背に振り分けて使う袋です。サイズはさまざまですが「ホリジン」と総称されます。
テント袋は、日用品を入れてテント内に吊り下げるほか、持ち運びにも利用。これらは「トルバ」と総称されます。
鞍袋・テント袋
展示品は、すべて丸山繁氏(ギャラリーササーン代表)の個人コレクションです。丸山氏はのべ40回以上現地を訪問し、天然染料を用いた遊牧民のオリジナル染織品の収集を続けてきました。
素朴な民具ですが、すでに遊牧の生活から離れた人々も多く、今では現地でも入手が難しくなっています。貴重な品々をじっくり鑑賞できる、貴重な機会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年2月25日 ]