人はなぜ、廃墟に魅了されるのか。
廃墟が描かれた歴史を、西洋、日本の両美術史から辿る企画展が開催されています。
廃墟が描かれた初期の作品では、廃墟は主題というよりも、舞台装置の一種のような風景の一部として描かれていた印象です。
左)シャルル・コルネリス・ド・ホーホ《廃墟の風景と人物》17世紀 油彩、板 東京富士美術館 / 右)ユベール・ロベール《ローマのパンテオンのある建築的奇想画》1763年 ペン、水彩、紙 ヤマザキマザック美術館
ところが18世紀になり、イタリアでポンペイなどの遺跡が発見され、廃墟巡りがブームになりました。すると、観光地で売られている絵葉書の先駆けというべき、お土産用の絵画(銅版画)の需要が高まりました。
江戸時代の浮世絵もお土産としての用途があったことを考えれば、今も昔も世界共通の嗜好性のようで親近感がわいてきます。
左)ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《『ローマの景観』より:ティヴォリの通称マエケナス荘の内部》1764年頃 エッチング、エングレーヴィング 国立西洋美術館 / 右)ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《『ローマの景観』より:通称ミネルヴァ・メディカ神殿》1764年頃 エッチング、エングレーヴィング 国立西洋美術館
お土産としての役割を考えると、自分が見たものを共有するためには建物の正確な描写が求められるはず。にも関わらず、あれもこれも切り貼りして詰め込んだ、現実には存在しない廃墟画もありました。
写真を加工して「盛る」のと同じような発想でしょうか?
ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《『ローマの古代遺跡』(第2巻Ⅱ)より:古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点》1756年刊 エッチング 町田市立国際版画美術館
西洋では17世紀の作品で廃墟が描かれたものがありますが、日本では江戸時代まで時代が下らなければならず、また、既存の西洋画をベースとしたものでした。
亜欧堂田善《独逸国廓門図》1809(文化6)年 紙本銅板筆彩 東京国立博物館
左)《古代ローマ繁栄之図:Rme dans son anciennce splendeur》18世紀 エッチング/右)ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《『建築と遠近法 第一部』より:古代のカンピドリオ》1743年 エッチング【こちらは、出品作品ではありません】
その後は徐々に、廃墟を主題とした絵画が描かれるようになっていきますが、廃墟的な絵画が多く描かれたのは、1930~40年代とのことです。
その後戦争に突入していくことを思うと、画家達が感じていた時代の空気みたいなものまでが伝わってきました。
榑松正利《夢》1940(昭和15)年 油彩、カンヴァス 練馬区立美術館
現代に入り、また廃墟を描いた絵が増えてきたそうです。
漠然とした不安を抱える世相を反映しているのかもしれません。
大岩オスカール《トンネルの向こうの光》1997(平成9)年 油彩、カンヴァス 福島県立美術館
大岩オスカールの『トンネルの向こうの光』。
これまでにも、絵の中の世界に惹き込まれるような作品はありました。
こちらは、絵を見ている現実の延長にトンネルが続いてるかのような不思議な感覚に陥りました。
ネタバレになるため多くは書けませんが、キャンバスにある仕掛けが施されています。作品キャプションに注目下さい。
展示を締めくくるのは、本展のために制作された野又穫の新作、『イマジン』2点です。
右)野又穫《イマジン‐1》2018年 アクリル、カンヴァス 作家蔵
野又穫《イマジン‐2》2018年 アクリル、カンヴァス 作家蔵
『イマジン‐2』で描かれたメインの建物の配下に拡がるのは、遊園地かテーマパークのパビリオンのような立体です。
それらは全て白で統一され、廃墟の跡のリセットされた世界のように「終わりのむこうへ」を感じさせます。
その一方で手垢の付いていない綺麗さも感じ、人から忘れられるのを待つ状態、廃墟になる予定が定められたものとも感じてしまうところが、本展で廃墟に魅入られた証かもしれません。
会場 | 渋谷区立松濤美術館 |
開催期間 | 2018年12月8日(土)~2019年1月31日(木) |
休館日 | 12月10日(月)、17日(月)、25日(火)、12月29日(土)~1月3日(木)、1月7日(月)、15日(火)、21日(月)、28日(月) |
開館時間 | 10:00~18:00、金曜日は20:00まで(いずれも入館は閉館30分前まで) |
所在地 | 東京都渋谷区松濤2-14-14 |
03-3465-9421 |
HP : http://www.shoto-museum.jp/ |
料金 | 一般 500円、大学生 400円、高校生・60歳以上 250円、小中学生 100円 ※その他、詳しい料金情報は【展覧会詳細へ】をご覧ください。 |
展覧会詳細へ | 「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」 詳細情報 |
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