展覧会概要
三重県立美術館で、彫刻家・中谷ミチコの展覧会が開かれています。今展は、彫刻家・柳原義達の遺族の援助による「Y²project」(次代を担う美術家の発信を目的とする展覧会)の第1回目です。
中谷は、国内の美術大学を卒業後、ドイツに留学しました。帰国後は、三重県を拠点に活動しています。今回は、柳原義達記念館の2つの展示室を使い、中谷の新作・近作と柳原の作品を織り交ぜながら両者のまなざしの交差を鑑賞する構成になっています。
2つの展示室にて
北側の展示室の正面奥には、白地に無数のカラスが飛び交う中谷の作品が置かれています。
その手前には柳原による5羽の鴉が、思い思いの方角を向き、翼を休めています。
展示室の様子 奥:中谷ミチコ《あの山にカラスがいる》2016年 手前:柳原義達《道標・鴉》、《風の中の鴉》)
中谷の作品は、一見すると絵画のような平面に見えるかもしれませんが、石膏型の凹みに透明樹脂や、着色した樹脂を流しこみ、表面を平らに仕上げた彫刻(レリーフ)です。
彫像などのように空間に突出する立体感はありませんが、窪んだ底部に隠れるマイナスの立体感に気づくと、思わず作品の周囲をまわりこみ、裏側を確かめてみたくなります。
中谷ミチコ《あの山にカラスがいる》2016年(部分)
一方、南側の展示室の中央には、中谷の白い中型の犬の像と柳原の立ち上がった女性像が置かれています。
そして、壁面に掛けられた小ぶりな少女像や舟を抱えた群衆などの作品が、犬の像と女性像を取り囲んでいます。
展示室の様子 左:中谷ミチコ《犬のお母さん》2019年 右:柳原義達《犬の唄》
中谷によれば、この構成は“その展示室に居る者すべてが等価値に「わたし」と「あなた」を行き来できるように”作られたものだそうです。(展覧会資料から引用)
中谷ミチコ《牛と少女》2019年
中谷ミチコ《牛と少女》2019年 横から
この展示室の奥のスペース(女性像の背中側)で、気になる作品を見つけました。
それは、中谷の白い少女像(レリーフではない)と柳原の小さな山羊(犬と見間違えた)の像です。
中央に置かれた2つの像の制作者とモデルの関係が入れ替わっていて、「わたし」と「あなた」を行き来するためのヒントのように思われました。
全体的に2人の作家の作品が心地良く響きあい、カラスと鴉、少女、犬、女性、鑑賞者のまなざしが行き来し、部屋のあちこちから会話が聞こえてくるようでした。
中谷ミチコ《犬の唄》2019年 photo:koji honda
さて、この展覧会はタイトルにあるように、中谷ミチコの個展なのでしょうか?
誰であれ、この問いに答えるのは容易ではないでしょう。それはさておき、小さな宇宙を確かに感じる展覧会でした。
中谷は、制作にあたり数多くのドローイングを描くそうです。今回は展示されていませんでしたが、機会があれば、ぜひ見てみたいと思いました。
閑話休題
三重県立美術館内にあるレストラン「ミュゼ・ボンヴィヴァン」では、みえジビエの料理を楽しめます。伊勢にある本店の「ボンヴィヴァン」とともにミシュランガイドに掲載される名店です。
この日は午前11時前に美術館に到着しましたが、レストランの入口には、すでに「ただいま満席」の表示が出ていました。
展覧会を見終り、帰り際にもレストランに寄ってみましたが、ロビーでは数組のお客様がメニューを見ながら待っていました。
そういえば、この美術館では、以前にもレストランに入れなくて、駅前でカレー(?)を食べて帰ったことを思い出しました。
以上
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ひろ.すぎやま
近現代美術、演劇、映画をよく見ます。
作品を見る時は、先入観を避けるため、解説などは後から読むようにしています。
折々に、東海エリアの展覧会をレポートしますので、出かけていただく契機になれば幸いです。
名古屋市美術館協力会会員、あいちトリエンナーレボランティア。
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