豊かな自然に恵まれた風光明媚な土地柄と、神社仏閣をはじめ歴史的な景観が点在する奈良は、古くから詩歌や文学、芸術の題材とされ、文人たちをも魅了する憧憬の地として知られてきました。明治時代に入ると、信仰と結びついた奈良の文化が改めて評価される中で、美術や行政に携わる人たちが盛んに訪れるようになり、古都・奈良の地にも徐々に新時代の息吹が芽生え始めます。大正時代から昭和戦前期にかけては、奈良の歴史や文化財に関する調査・研究も進展し、その魅力が広く浸透するとともに多くの文化人が集い、往来するようになりました。また、こうした動向は奈良の人々をも刺激して、両者は互いに交流を重ねながら時にはコミュニティーを形成し、地域文化の興隆を促しました。
本展では、美術家をはじめ研究者や文学者から美術行政家まで、奈良に足跡を残した人々を、「第1.章 近代の息吹~對たい山ざん楼ろうに宿る人々」、「第2.章 華開くモダン~高畑界隈の人々」の2章により紹介します。美術を通じて展開された、これら文化人たちの活動を概観することで、奈良と美術との関わりを検証すると同時に、独自の文化が華開いた近代奈良の一面に目を向ける機会となれば幸いです。