蒐集家・出光佐三のこころ

　今から100年前の明治38（1905）年、のちに出光興産株式会社を設立し、出光美術館を創設した出光佐三がまだ19歳の学生であった頃、たまたま当時、全国的にはそれほど知られていなかった仙厓の「指月布袋画賛」に目を留め、父に頼んで手に入れました。これが記念すべき出光コレクション第一号となり、膨大な質量を誇る出光コレクション形成の第一歩となりました。 　それ以降、仙厓はもちろんのこと、田能村竹田の絵画や、中国の陶磁器・青銅器、古唐津・古九谷などの日本陶磁器、小杉放菴や板谷波山といった近代作家の書画・陶磁器、さらにはサム・フランシスやジョルジュ・ルオーの作品へと蒐集は広がり、「三十六歌仙切　人麿（佐竹本）」や牧谿筆「平沙落雁図」をはじめとする数々の重要文化財を含む現在のコレクションの核となる逸品が集まったのです。 　また、実業家として出光興産を軌道にのせた後は、昭和41（1966）年に設立された出光美術館館長として、97歳で亡くなるまでのその後半生をコレクションの充実と、日本美術の普及という二つの目標にむけて精力的に活動しました。 　晩年、その生涯を回顧して、「私の一生はいつも美にリードされてきた」と語った佐三。日本の美の伝統を愛し、その蒐集・保存、公開に情熱を注いだ一人のコレクターの軌跡を、コレクションの名品を通してたどります。