1974年、ショーン・タンは、西オーストラリア州に生まれました。一貫してタンが描く作品の世界観は、何かが失われ、ほころびが生じた世界。この作風は、マレーシアから西オーストラリアに移住したタンの父親の経歴が影響を与えています。
本展では、タンが初めて絵と文章を手掛けた絵本「ロスト・シング」などの原画や立体作品、映像を含む、約130点の作品を紹介。タンならではといえる、独創的な絵本作りの秘密に迫ります。
企画展は、2階の展示室2と1階の展示室4で開催。まずは2階の展示室2から。ここでは、タンの創作の出発点ともいえる、独自の視点で風景を切り取った油絵作品や、代表作「アライバル」の原画と絵コンテやスケッチ、資料が展示されています。
2006年に発表された「アライバル」は、移民をテーマにした文字のないグラフィック・ノベル。128ページ・全6章におよぶ本作は、制作に約5年の歳月を費やした超大作です。その独創的な世界観と表現方法で大きな反響を呼び、23の言語で刊行されています。
タンは、「アライバル」を描くにあたり、自然物をあるがままに再現しようとする、自然主義的な描写を選択しました。ヴィットリオ・デ・シーカ監督の映画「自転車泥棒」(1948年)や、サイレント映画からも着想を得たといいます。
1階の展示室4では、ショーン・タンのアトリエが再現展示されています。美術館スタッフが実際にオーストラリアに渡り、調査した上で再現されたアトリエは、臨場感がありました。
2011年のアカデミー賞で、短編アニメーション部門を受賞した「ロスト・シング」も紹介。こちらは映像と原画どちらも見ることができます。
「ロスト・シング」は、ある夏の日に少年が浜辺で出会った迷子の居場所を探す物語です。しかしその迷子は、だるまストーブの胴体に、手はカニ、ストーブのフタから出てくるタコかイカのような足と…不思議な生物。タンは作中に不思議な生物を多く描いています。
作品からは豊かなインスピレーションを感じますが、パネルで紹介されているタンの言葉は、やや意外です。「自分の作品について語るとき、“インスピレーション”という言葉を使うのには、いつもためらいがある」。
また、制作にあたり、タンはあらかじめイメージを組み立ててから描くのではなく、描きながら考えていくと語っています。《理性》、《情熱》など、タンの自由な発想で生み出された不思議な生物の立体作品も展示されています。
ショーン・タン初のミュージアムグッズが販売されている、ミュージアムショップもお見逃しなく。東京展終了後、京都へ巡回します。詳しい会場と会期はこちらをご覧ください。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2019年5月13日 ]