オールドマスター(昔日の巨匠)は、16世紀ルネサンスから17・18世紀のバロック・ロココの時代に活躍した画家たちの事。会場では、美術館を創設したエカテリーナ2世の肖像に続き、国・地域別に作品が紹介されています。
まずはイタリア。ルネサンスで西洋美術の頂点を極めたイタリアは、その後もヨーロッパ諸国の芸術家にとって憧れの地でした。美しいマリアが印象的な《聖家族》は、ポンペオ・ジローラモ・バトーニの代表作。後年の新古典主義に繋がる作家です。
レンブラントやフランス・ハルスに代表されるオランダ絵画は、17世紀が黄金時代です。スペインの支配から独立した後、大きく発展しました。ハルスは肖像画の名手。《手袋を持つ男の肖像》も、素早いタッチで人物の特徴を見事に捉えています。
第1章「イタリア:ルネサンスからバロックへ」、第2章「オランダ:市民絵画の黄金時代」17世紀のフランドルといえば、ルーベンス。工房を組織して絵画を量産したバロックの巨匠です。半裸の羊飼いが女性に迫る作品は《田園風景》。男女ともがっしりと厚みがある肉体で、健康的な色気に溢れています。
16世紀に隆盛したスペイン。17世紀になると国力は下り坂でしたが、絵画はこの時代が黄金時代でした。スペインではカトリックの影響力が強かった事もあり、会場でも宗教画が並びます。
第3章「フランドル:バロック的豊穣の時代」、第4章「スペイン:神と聖人の世紀」第5章のフランスには、本展最多の23作品。20世紀になって主役の座をアメリカに奪われるまで、世界の美術の中心はフランスでした。絶対王政時は理論的な古典主義、革命前は華やかなロココと、スタイルを徐々に変容させながら、多くの名作が生まれました。
展覧会メインビジュアルの《盗まれた接吻》は、意外なほど小さな作品。45×55センチなので、A2版ぐらいの大きさです。引き寄せられながら、誰かに見られないか心配する若い女性。サテンのドレスの表現は実に見事です。
第5章「フランス:古典主義的バロックからロココへ」第6章はドイツとイギリス。15世紀末~16世紀初頭の両国は、宗教改革や清教徒革命のため社会は混乱していましたが、美術の世界では傑出した才能も生まれています。
中でも注目は、ルカス・クラーナハ。
クラーナハは大規模展が開催されたばかりなので、独特な艶めかしさを覚えている方も多いのではないでしょうか。《林檎の木の下の聖母子》に描かれているのは確かに聖母子ですが、マリアの目もとの色っぽさは、いかにもクラーナハです。
第6章「ドイツ・イギリス:美術大国の狭間で」全85点でヨーロッパ絵画の主要な流れを通覧できる展覧会。うち42点と約半数がエカテリーナ2世が在位中に取得した作品です。北ドイツの田舎貴族の家に生まれた彼女が、ロシアに生涯を捧げ、ロシアの威光を高めるため懸命に歩んだ足跡も感じていただければ、より深くお楽しみいただけると思います。
展覧会は
森アーツセンターギャラリーの後に愛知、兵庫と巡回します。
会場と会期はこちらでご確認下さい。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年3月17日 ]■大エルミタージュ美術館展 に関するツイート