充実の東洋文化財
武蔵野の面影を残す、世田谷区岡林の岡本静嘉堂緑地にある
静嘉堂文庫美術館。静嘉堂文庫は、三菱第二代社長の岩﨑彌之助と、その長男で第四社長の岩﨑小彌太によって1892(明治25)年に設立されました。
西洋文化が尊ばれた“脱亜入欧”の明治時代。没落した大名家から至宝が散逸する中、彌之助は積極的に東洋の文化財を収集し、小彌太によってそのコレクションはさらに拡充していきました。
現在は国宝7点、重要文化財83点を含めて、20万冊の古典籍、6,500点の東洋古美術を所蔵。その充実したコレクションは、内外に広く知られています。
美術館最大の目玉が登場
2012年度は静嘉堂文庫創設120周年・美術館開館20周年にあたる節目の年。3期にわたり、記念シリーズ展「受け継がれる東洋の至宝」が開催されています。
partI「東洋絵画の精華 -名品でたどる美の軌跡-」、PartⅡ「岩﨑彌之助のまなざし -古典籍と明治の美術-」に続き、トリを飾るかたちで始まった茶道具の名品展。美術館最大の目玉といえる茶碗、国宝≪曜変天目(稲葉天目)≫が公開されています。
瑠璃色の光彩
南宋時代に中国福建省建窯でつくられた曜変天目。漆黒の碗の内側に大小の斑文が浮かび、その斑文の周辺は瑠璃色に輝いているという、神秘的な茶碗です。
曜変天目は世界に三碗のみ(すべて日本にあります)で、中でも最も光彩が鮮やかなのが、ここ静嘉堂文庫美術館の曜変天目。淀藩主の稲葉家伝来のため「稲葉天目」とも呼ばれています。
高7.2cm、口径12.2cmという実物の第一印象は、意外に小ぶり。ただ、ひとたび内側を覗き込むと、星雲のような大小の斑文と角度によって色が変化する光彩は、目が釘付けになる存在感です。“天下の名品”であるこの碗は、所有した岩崎小彌太が生涯一度も使わなかったという逸話も残ります。
名品茶道具が続々と
曜変と比較して紹介されているのは≪油滴天目≫、こちらは碗の外側にも斑紋があります。斑紋が油の滴が水面に散ったようなので、この名が付きました。
静嘉堂の油滴天目は、口が朝顔形に大きく開いた形。曜変に比べると地味な印象がありますが、こちらも重要文化財の名碗です。
他にも名品茶道具が目白押し。茶入≪付藻茄子≫(つくもなす:九十九髪茄子)は、松永久秀が織田信長に献上し、代わりに一国一城を安堵された大名物。本能寺の変や大阪夏の陣で被災してバラバラになりましたが、徳川家康の命により超絶技法で修復されました。彌之助が最初に購入した茶道具のひとつです。
重要文化財≪色絵吉野山図 茶壺≫は、京焼の名工、野々村仁清(ののむらにんせい)の代表作。ちょうど根津美術館でも紹介されている、小堀遠州や松平不昧ゆかりの茶道具も並びます。
次はいつ?
少し茶道具に興味を持った人が調べていくと、必ず辿り着くのが曜変天目です。曜変天目の公開は2~3年に一度程度で、今回も2年半ぶりの公開。もちろん館外にはまず出展されません。この機を逃すと、次に見られるのは再来年?その翌年?(取材:2013年2月28日)