版画家、吉田穂高氏(1926-1995)の作品が集結した回顧展。
タイトルにあるように、壁や塀、標識、家などの身近な建造物を描いた作家です。
本展では、作品を通し、時代ごとに大きく変化する画風を紹介するともに、ごく身近な対象物へと移ってゆく作家の視点を追います。
Ⅰ.誕生から形成期
父は洋画家の吉田博、母と兄も画家という「美術一家」の中で育った穂高。
そういった環境は、穂高の創作活動において大きな影響を与えるものでした。独学で油彩画を描き始めた穂高は、家族にも師事することはなかったそうです。
本章では、初期の油彩抽象画や、第一高等学校時代に創作した現代短歌も展示されています。
Ⅱ.メキシコとの出会い
父母の時代から数回渡米し、世界を舞台に活動した「美術一家」の吉田家。1955年、木版画講習を行う兄に同行した穂高は、アメリカと中米を訪れます。
その帰りに立ち寄ったメキシコと古代マヤ文明に強い感銘を受けると、原始美術から着想を得た抽象作品を描くようになりました。
ここでは、人間の生命力が感じられる力強い作品が並びます。この時期の作品は木版画が多いですが、やがてその表現方法に限界を感じた穂高は、リトグラフ等、他の版画技法も積極的に取り入れていきます。
Ⅲ.コラージュと写真製版
1963年、渡米しアメリカのポップアートに刺激を受けた穂高は、コラージュ作品を制作し始めます。
初期の作品は、雑誌の切り抜きや版画をパネルに貼り付けたものでしたが、それらの切り抜きを版に置き換えるため、リトグラフ、シルクスクリーン等多岐にわたる技法を手掛けるようになります。
本章に展示されている作品は、版画技法も、作品中に取り入れられるモチーフも様々です。
手塚治虫のアトムや、葛飾北斎風の空が登場し、神話にも題材を採っています。
自らの表現の可能性を探りながら試行錯誤する作家の姿が浮かび、挑戦していく精神を感じました。
Ⅳ.私のコレクション
国内外の旅を通して作品を作り続けた穂高。
その道中、私的なコレクションとして、壁や塀、標識などの身近な対象物を写真に収めています。
やがて、自身が心を傾けて撮影した写真の対象物は、穂高の作品世界の中で重要な要素となります。実際の作品でも壁や塀がそのまま、単体で現れます。
作品の元となった写真も展示されています。
版画作品と見比べることで、写真に写された身近な風景の中に、穂高がどんな世界を捉えていたのかを窺い知ることができます。
後半には大型の作品が並び、迫力があります。
本展示では、穂高が旅先で収集した民芸品や、自宅の装飾用に製作した彫刻や提灯、下落合にあった博(父)のアトリエで撮られた家族写真も展示してありました。
「作品」だけでない、これらの展示物からも穂高の創作に対する思いを伝える展示となっています。
エリアレポーターのご紹介
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nakane
作品自体もそうですが、展示されている空間も好きです。展示風景や雰囲気など、図録や公式HPの記録には残りづらいことを、一ファン目線で捉え、共有出来たらなと思います。
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