多様な切り口で現代美術を紹介してきた森美術館。これまでも「医学と芸術展」(2009-2010年)、「宇宙と芸術展」(2016-2017年)など、美術と科学を組み合わせた展覧会を開催してきました。
今回は、ずばり「未来」がテーマ。AIやバイオ技術など最先端テクノロジーから影響を受けた作品を、5つのセクションで紹介していきます。
1章は「都市の新たな可能性」。都市が抱えるさまざまな問題に対応するため、これまでの枠組みを超えた都市の姿が提示されています。
《江戸のエデン》は、2200年の東京がテーマ。旧市街地は温暖化で海面下に沈み、その上に再び都市が構築されます。
《2025年大阪・関西万博誘致計画案》は、万博招致を勝ち取ったプランを、未来都市のあり方として再構成したもの。模型の前の2カ所でARを楽しめます。
2章は「ネオ・メタボリズム建築へ」。黒川紀章らが1960年代に提言したメタボリズム。有機的に成長する都市や建築を、現代の目線で再び示します。
《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》は、展覧会のメインビジュアル。埋め込まれた微細藻類が効率よく光合成できるように計算された形が、3Dプリントで出力されています。
白いオブジェのように見える《気分の建築》は、集合住宅のプラン。聞き取り調査などで住人の深層心理を収集して数値化。個人の要望を満たす理想の建築を生み出します。
3章は「ライフスタイルとデザインの革新」。白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫の「三種の神器」を出すまでもなく、技術の進歩は暮らしに大きな変化をもたらします。
《インターナル・コレクション》シリーズは、人間の神経系など、体内組織をテーマにしたドレス。作家自身が皮膚形成不全を患っていました。
《エンタテインメントロボット aibo》は、ご存じソニーの愛玩ロボット。極めて高性能ですが、実用性から離れ、人を楽しませる事が目的になっているのは、ロボットにおける革命ともいえます。
4章は「身体の拡張と倫理」。人々の身体に関わる技術は、倫理的な問題に直面する事もあります。
ぎょっとする子どものモデルは《変容》シリーズ。スポーツ分野で成功するため、空気力学に優れた、尖った鼻の新生児。子どもをデザインする事は、どこまで許されるのでしょうか。
展覧会の目玉のひとつが《シュガーベイブ》。フィンセント・ファン・ゴッホの玄孫の軟骨細胞を用いて、ゴッホが切り落とした左耳を「生きた状態」で再現しました。
5章は「変容する社会と人間」。発達したテクノロジーは、公共とプライバシーの関係など、微妙な問題にも及びます。
《ズーム・パビリオン》は参加者の顔を検出して追跡する、ビデオインスタレーション。監視社会そのものを意識させます。
展示期間が過ぎてしまいましたが《オルタ 3》は強烈なインパクト。機械がむき出しで、上半身だけのアンドロイド。異様な声を発しながら鑑賞者に反応するさまは、得体のしれない恐ろしさを感じます。
全体的に明るさよりも、ダークな未来をイメージさせる作品が印象的でした。「ロボットに支配されるなんて、SFじゃあるまいし」と、思っていないでしょうか。あなたが自分で選んだと思っているレストランは、AIが検索サイトで上位に出しているだけです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年11月18日 ]