19世紀末から20世紀初頭にかけ、ブレーメン(北ドイツ)郊外に花開いた芸術家村がありました。その名はヴォルプスヴェーデ。自由な生と新しい美を 求めた芸術家たちは、手つかずの自然と素朴な人々に惹かれ、この地に集いました。とりわけ、31歳で夭逝した悲劇の女性画家、パウラ・モーダーゾーン= ベッカー(1876-1907)は、独自の絵画表現に自らの生を燃焼させた、ドイツ表現主義絵画の先駆者として知られています。
澄みきった自然の中で、いのちあるものに慈しみのまなざしを投げかける一方、パウラはセザンヌやゴッホ、ゴーギャンなど、最先端のパリの美術界からも刺激を受けます。研ぎ澄まされた土着性と近代感覚は、やがて単純化したフォルムによる独自の色彩言語へと結実しました。自ら「ざわめく音、あふれる量感、喚起するもの、つまり力強いものを色彩に与えたいのです」と語るように、彼女の作品からは、対象が放つ力強い生命力と、その普遍性が見てとれます。
本展では、素描と版画という生活に密着した表現媒体を通じて、パウラをはじめハインリヒ・フォーゲラー、フリッツ・マッケンゼン、オットー・モーダーゾーンら、この芸術家村の住人たちの作品を辿ります。さらにはドイツ近代美術に一条の光を投じたこのグループと、詩人ライナー・マリア・リルケらとの交遊も浮き彫りにします。生と芸術、文学と絵画、市民性と地方性といった総合芸術の魅力が、わが国で本格的に紹介されるのは初めてのことです。この好機に、北ドイツの寒村に花開いた芸術家村・ヴォルプスヴェーデの世界に、ぜひ触れてみてはいかがでしょうか。