With Chairs-椅子は、人間に最も身近な道具のひとつです。座るための道具でありながら、その種類は多岐にわたり、今や椅子のない生活はありえません。公共の場でも、建築に併せたバラエティ豊かなユニークな椅子が見られ、暮らしの中のアートとして広がってきました。室内空間やデザインに敏感な人たちに人気があるのは著名な建築家や家具デザイナーの作品です。また、椅子ほどデザインが難しいアイテムはないといわれます。強度や掛け心地、美しさや経済性まで、そのハードルの高さがデザイナーをひきつけ、数多くの作家の個性豊かな作品を生み出してきました。
本展では、椅子の研究家の第一人者として、世界でも注目される織田憲嗣(おだのりつぐ)氏が35年にわたって集めた1000脚もの世界の名作椅子を中心に、ユニークなデザインに着目し、100脚をご紹介します。1999年に第1回目の「チェアーズ展」を開催し好評を博し、今回2回目となります。
かつてはオーダーメードであった椅子が、庶民のための暮らしの道具として大量生産できるようになったきっかけは、1859年、ドイツオーストリア帝国のミヒャエル・トーネットが曲げ木の技術を開発したことでした。水蒸気を利用して無垢材を曲げることを開発し、細くて軽い丈夫な部材を生み出しました。また生産コストを抑えるために安価なブナ材を採用、曲げ木でさまざまなパーツを組み合わせることでより多くのヴァリエーションを生んだのです。現在トーネットは曲げ木家具の代名詞となっています。こうして世界で初めて大量生産が可能で手頃な価格と機能性、美を兼ね備えた椅子が誕生。20世紀の椅子のあり方を大きく変えました。やがて椅子は建築に併せて作られ、建築家ル・コルビジェ、FLライト、バウハウスのマッキントッシュなど日本でもおなじみの巨匠から、A.ヤコブセンなど北欧モダンの名匠まで、「美しい暮らしのカタチ」として創りだされてきています。
本展では、これらの名作椅子を素材、構造、アート、技術の4つのカテゴリーで構成。エポックメイキングとなった1859年の曲げ木の椅子「トーネットNo14」、1928年建築家ル・コルビジェの代表作「LC-4 シェーズロング」、1966年の月面着陸という名のアートな椅子「アルナッジオ」、1988年シートの両端に自転車のチェーンを使用、つり橋のような構造をもつ「バルバ・ダルジェント」など、西洋から日本の作家までデザイン史に残る名作椅子1 0脚を一堂に会します。いつも暮らしの中に私たちとともに存在する「椅子」、その1859年から150年の歩みを通して、豊かな暮らし作りの新たなヒントを提案いたします。