スウェーデンのガラスメーカーSkruf(スクルフ)社やOrrefors(オレフォス)社のデザイナーとして活躍する一方、自宅の工房で作陶も行うインゲヤード・ローマン。便宜的に「デザイナー・陶芸家」と書きましたが、ローマンは自身を、デザイナーではなく「Form-giver(形を与える者)」、陶芸家ではなく「Potter(陶工)」と称しています。
作家として見られる事を好まないローマンの姿勢は、器を見れば顕著。匿名性が高くとてもシンプルですが、洗練された美しさが際立っています。
本展は、2016年にスウェーデン国立美術館で開催された「インゲヤード・ローマン」展をベースに、初期から最新作まで約180点を紹介するもの。世界的なデザイナーですが、ローマンを日本で本格的に紹介するのは本展が初めてです。
作品の半数以上を占めるのが、ガラス器。制作のコンセプトは、ローマンが「自然からのギフト」と呼ぶ「水」です。森と湖に恵まれた国、スウェーデン。水は生活に欠かせない存在であるとともに、母国の地域性も象徴しています。
展覧会では、日本での協働プロジェクトも紹介されます。2016年には、「2016/」プロジェクトに参加し、有田焼の老舗・香蘭社とのコラボで《ティー・サービス・セット》を発表。白と黒のマットな質感は、香蘭社のベテラン職人と何度もやりとりをした末に到達しました。
2017年には、木村硝子店とのコラボも実現。「自由にデザインしてほしい」とのアプローチで、極めて薄いガラスの器、計11種が生まれています。
工芸館の展覧会に何度か来た方なら、会場デザインにも驚くはず。いつもの展示ケースではなく、作品はテーブルの上で露出で展示されています。
会場を手がけたのは、気鋭の北欧建築家グループ、CKR(Claesson Koivisto Rune)。20のテーブルは天板の素材がそれぞれ異なり、窓のカーテンも開いているので、展示室には外光が入ります。「美術品としてではなく、日常の中での器を感じて欲しい」という思いから、この会場デザインとなりました。
テーブル上のモニターでは、ローマン自身によるインタビュー映像も。記者発表会でのローマンさんは、作品に対する熱い思いを披露する一方で「(自分の写真を撮るなら)ぜひチャーミングに撮って欲しい」と語るなど、気さくで親しみやすい方でした。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年9月13日 ]