目を惹くタイトル「この二人はあやしい」は、あるエピソードから。1925(大正14)年、東京・田端で芥川、朔太郎と、室生犀星の三名で食事をしていた時、芥川が犀星に「室生君と僕の関係より、萩原君と僕のとの友誼の方が、遥かにずっと性格的に親しいのだ。」と言い、犀星を怒らせた事がもとになっています。
企画展では、萩原朔太郎『絶望の逃走』、芥川龍之介『侏儒の言葉』などから引用したアフォリズムを、「文学・社会・自然・人間・芸術」の5つの主題で展示。交流エピソードを交えて、二人の共通点と相違点を紹介します。
二人の言葉が展示ケースのガラス面や、巨大パネルに貼り出され、ケース内には主題に沿ったオブジェが展示されるなど、展示手法はとても斬新。視線を上に向けると、天井にもアフォリズムがずらりと並びます。これらの展示は、萩原朔美館長(萩原朔太郎のお孫さん)のアイデアをもとに構成されました。
文学館の展覧会といえば、生原稿や初版本の紹介が多く、総じて地味な印象ですが、前橋文学館の企画展示は、かなりユニーク。萩原館長が就任した、2016年の江戸川乱歩と朔太郎の交流を探る「パノラマ・ジオラマ・グロテスク」展から、一風変わった企画展が開かれるようになりました。
企画展「この二人はあやしい」3階オープンギャラリーでは、昨年好評を博した「『月に吠えらんねえ』展」の続編として、「『月に吠えらんねえ』龍くんと朔くん篇」も開催。複製原画や、展覧会のために描き下ろされた漫画などが展示されています。
『月に吠えらんねえ』(以下:『月吠』)は、清家雪子さんによる漫画。2013年から月刊アフタヌーン(講談社)で連載がスタートしました。主人公・朔くんなどの登場人物は、『月に吠える』などの作品から得た印象を擬人化したもの。作家本人をモデルにせず、著作物からキャラクターが作り出されています。
清家さんは『月吠』を執筆するにあたり、膨大な参考文献を閲読しています。企画展では、単行本の巻末に掲載されている、参考文献リストを展示。読んだ参考文献を丁寧に整理し、手に取りやすい漫画の形へ落とし込む、清家さんの構成力に脱帽です。
前橋文学館最後に館についてご紹介。前橋文学館には、日本近代詩に大きな足跡を残した詩人たちの資料が展示されています。特に朔太郎の資料は充実しており、直筆原稿や愛蔵品を紹介する朔太郎展示室があります。
館の前を流れる広瀬川を挟んだ先にあるのは、萩原朔太郎記念館です。こちらは前橋市北曲輪町69番地にあった生家を移築復元した建物で、2017年から公開されました。
記念館の敷地は、自由に入場可能。入ってすぐの書斎の上には、2匹の陶器でできた猫が乗っています。すぐ下には、詩『猫』のパネルが近々設置が予定されています。記念館も盛り上がっていますので、あわせて足を運んでみてください。
※建物内部見学には許可が必要です。文学館1階の受付でご相談ください。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年11月14日 ]