17世紀以降、東インド会社によって、ヨーロッパに東洋の文物が輸入されました。なかでも純白の磁器は、当時の王侯貴族たちの間で「白い金」と呼ばれるほど人気の高いものでした。
マイセンの創立者である、ザクセン選帝侯アウグスト1世(ポーランド国王2世、1670-1733)も、東洋磁器に憧れた人物の一人です。中国の壺151個と自身の兵士600人を交換したという逸話も残るほど、強王は磁器に金銭をつぎ込みました。
1710年、強王はドレスデン郊外のマイセンにあったアルブレヒト城内に、マイセン王立磁器製造所を設立。以来、マイセンは現在まで300年以上も西洋磁器のトップブランドとして高い評価を受け続けています。
強王は権力を誇示するために、メナージェリ(宮廷動物園)を磁器で再現する夢を抱き、大量の動物彫刻像が作られました。王の死後も、動物をテーマとした作品は、アール・ヌーヴォーやアール・デコなど各時代の様式を取り入れながら作られました。
本展では、マイセンの作品の中でも重要なアイテムである「動物」に関連する作品を紹介。一つのテーマに絞ってここまで揃う事は珍しく、貴重な展覧会といえます。
マイセンを代表するシリーズのひとつで、愛好家も多く存在する「スノーボール」。小花装飾を貼り付け磁胎を装飾した作品です。スノーボールとは、アジサイのように複数の小花が球体を作る、スイカズラ科の落葉低木のこと。ヨーロッパ大陸に広く分布する植物です。
《スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥付透かし壺》は、よく見ると壺の中に黄色い鳥が隠れています。ヒントは、右下のライト付近。ぜひ覗いてみてください。
19世紀末から20世紀初頭にかけてアール・ヌーヴォーが流行すると、マイセンでも取り入れられ、曲線を生かすために色彩部分にイングレイズという技法が導入されました。
イングレイズとは、焼成時に釉薬の中に絵の具を染み込ませて閉じ込める技法のこと。これにより、マイセンの動物彫刻はより柔らかな表情を見せるようになります。愛らしい犬や猫のほか、キリンやシロクマなどの動物が紹介されています。
《四羽のオウサマペンギン》は、オウサマペンギンの特徴である下クチバシのオレンジ色や、首から胸にかけての橙色が見事に表現されています。
マックス・エッサーは、1920~30年代にマイセンで成型師として活躍した彫刻家。マイセンにおけるアール・デコ様式を確立したひとりです。優れた可塑性を持ち、硬く滑らかな素材の「ベットガー火石器」を使用した彫刻が展示されています。
マントヒヒやクマのマスクが展示されているコーナーでは、ジャングルのBGMが流れる仕掛けが。マスクに近づいてよーく見ると…目の中が赤く光っています。ちょっとドキッとする仕掛けもユニークです。
本展は一部の展示を除いて、写真撮影が可能。作品はどれも美しくて写真映えします。《花鳥飾プット像シャンデリア》と、すぐ後ろの《花鳥飾プット像鏡》とのセット撮影がおすすめです。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2019年7月5日 ]