フレスコを思わせる艶消しの色調で、公共建築に相応しい落ち着いた壁画を数多く手がけたシャヴァンヌ。展覧会では、主に壁画を作家本人が再制作した縮小版が展示されており、オルセー美術館、リヨン美術館、パリ・プティ・パレ、メトロポリタン美術館など世界各国の美術館から作品が集結しました。
展覧会のサブタイトルにあるアルカディアは、自然と人間が調和して生きる理想郷のこと。普仏戦争やパリ・コミューンで壊滅的な打撃を受けたパリを眼前にし、シャヴァンヌは平和な理想郷を壁画の中で追求しました。
会場展覧会のメインビジュアルでも使われている作品が《諸芸術とミューズたちの集う聖なる森》。フランス第2の都市で、シャヴァンヌの生まれ故郷でもあるリヨンの美術館の壁画中央部として制作されたものです。
舞台は水辺のアルカディア。美術館(ミュージアム)の壁画に相応しく、イオニア式のギリシア建築の前に9人のミューズ(文芸を司る女神)が集っています。
《諸芸術とミューズたちの集う聖なる森》シャヴァンヌは1891年には国民美術協会の会長に就任し、名実ともに画壇のトップに上り詰めました。
多忙な中でも公共事業の壁画を次々に手掛け、ルーアン美術館、パリ市庁舎、パンテオンとフランス国内のみならず、遠くはアメリカのボストン公共図書館の壁画も制作。その名声は国外にまで広がっていきました。
会場国際的に高い知名度があったシャヴァンヌは、日本の洋画界にも大きな影響を与えた存在でした。
日本近代洋画の父である黒田清輝は、その師であるラファエル・コランの紹介状を持ってシャヴァンヌを訪問。自作「朝妝」に対しての助言を求めています。ちなみに、裸婦画である「朝妝」は日本で発表された際、風紀上の理由から物議を醸したことはよく知られています(現在は焼失)。
藤島武二もシャヴァンヌ作品を熱心に模写。初期の代表作《天平の面影》(重要文化財)には、その影響を強く感じさせます。
黒田清輝の下絵なども象徴主義の画家だけでなくスーラ、ピカソ、マティスなど名だたる画家にも影響を与えた、高貴で静謐なシャヴァンヌの世界。時間をとってお楽しみください。
なお本展は3月20日(木)~6月16日(月)、
島根県立美術館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年1月8日 ]