18世紀初頭のロシアでは、ピョートル大帝のもと、政治だけでなく文化や芸術においても、西欧化が推し進められていました。その後、女帝エカテリーナ2世の時代には、西欧化の流れは更に顕著に。ロシア美術はヨーロッパで流行した新古典主義やロマン主義といった美術様式を取り入れ、独自の発展を続けてきました。
特有の雄大な自然、神話や英雄の理想主義的な歴史画をテーマにする一方、庶民を描いたリアリズム絵画も盛んになっていったロシア。本展では、自然や風俗を描いた作品、40点が紹介されます。
メインビジュアルにも使用されている《第九の怒涛》。海洋画家・イワン・アイヴァゾフスキーの作品で、最も良く知られています。
絵の主題は「9番目に来る波が最も破壊的」という言い伝えから。手前の人物からは、自然に抗う人間の強い生命力も感じます。
縦約2メートル、横約3メートルの超大作。並んで展示されている《大洪水》とともに見ると、その迫力に圧倒され、思わず立ちすくんでしまいます。ぜひ、会場で体感してみてください。
《魔法円を鋤で掘る》は、農村の風俗画の巨匠、グリゴリー・ミャソエードフの作品。
中央の炎を囲む人々の右側には、未婚の少女。村の女たちに連れられ、鋤を引いて歩います。「家畜の死神」が村へやってこないように、スラブ民族に古くから伝わる儀式です。
会場の最後を飾る幻想的な作品は、イリア・レーピンによる《サトコ》。ロシアの口承叙事詩「ブィリーナ」から、水中王国の商人・サトコ(男性)を描きました。
さまざまな国の美女に魅了されながらも、サトコは自分の花嫁にロシア人女性・チェルナヴァを選びます。画面右の黒い服の男性がサトコ、左上に薄く描かれているのがチェルナヴァ。運命に導かれるように、熱く視線を交わしています。
仮にサンクトペテルブルクを訪れても、どうしても優先されるのはエルミタージュ美術館のほう。なかなかロシア美術館までは足を伸ばせないと思います。40点がまとまって来日する貴重な機会、お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年10月5日 ]