1968年の連載開始から約半世紀。高森朝雄(梶原一騎)原作、ちばてつや画による『あしたのジョー』は、スポーツマンガの金字塔といわれ、今でも世代を超えて多くのファンに愛されています。
100枚を超える貴重なモノクロ原稿をはじめ、作品に対する作者の言葉などもあわせて、あらためて『あしたのジョー』の魅力を見つめなおす展覧会が、世田谷文学館で開催中です。

会場入口
冒頭はストーリーのおさらいから。下町のドヤ街に流れ着いた、天涯孤独のジョー。ボクシングに出会い、さまざまなライバルとの死闘を経て、ついに世界タイトルマッチのリングへと進みます。
少年院にいたジョーに届くのが、「あしたのために」で始まる丹下段平からの手紙です。作中で1~7まで描かれた「あしたのために」にちなんで、展覧会は7章構成です。

1章「ジョーの成長とともに見る ストーリーダイジェスト」
2章は漫画の舞台を再現したイメージコーナー。ジョーとは対照的な魅了で、人気を集めていた力石徹。力石の死は大きな反響を呼び、寺山修司の呼びかけにより、実際に葬儀が行われました。
イメージコーナーはここを含めて3カ所。他は「丹下拳闘クラブ」と、あの「ラストシーン」です。

2章「あしたのために イメージコーナー」
高森朝雄と、ちばてつや。日本漫画史に残るスペシャルタッグによる作品には、数々の逸話が残されています。
3章では当時のボクシングのラウンド数にあわせ、作者の思い入れが深いシーンを15ずつセレクト。ちばてつやは「紀子とのデート」など、高森城(高森朝雄の著作権継承者)は「ボクシングジムの会長たちの会議に突然現れる葉子」などを選んでいます。

3章「高森城×ちばてつや 両者が選ぶ名場面」
ジョーと力石は、互いの命を削るほどに闘った相手ですが、最終的には魂が触れ合う友。高森朝雄とちばてつやも、時には闘いながらも、マンガさながらの友情で結ばれていました。
4章では両者のエッセイで、作品にかける作者の想いを紐解いていきます。

4章「『あしたのために』のために」
作品には、ジョーと同じように「あした」を掴みとるべく、もがき続ける人々が登場します。
5章ではジョーをとりまく人々として「ドヤ街の仲間」「葉子と紀子」「丹下段平」「力石徹」「西寛一」「カーロス・リベラ」「ホセ・メンドーサ」に焦点を当て、それぞれの世界と言葉を紹介していきます。

5章「ジョーの仲間たち」
『あしたのジョー』が歴史的な名作となった舞台裏では、原作者とマンガ家による壮絶な格闘がありました。良く知られているのは、力石徹。少年院で出会ったジョーのライバル・力石を、ちばが大男として描いたため、ボクシングの同じ階級(バンタム級)で戦うために、壮絶な減量のエピソードが加えられました。
6章では、原稿と原画を比較して展示。原稿に書かれた部分のほかに、実に多くの場面が加えられている事がわかります。

6章「舞台裏の格闘 高森朝雄 vs ちばてつや」
最後の7章は小さな展示室ですが、ちばてつやからの熱いメッセージが。満州で終戦を迎え、混乱する社会の中で過酷な幼少期を過ごしたちば。自身の戦争体験は、作品の中では金竜飛のエピソードとして描かれます。
誠実な作風で“日本マンガ界の良心”と称されるちばが、表現の自由に関する問題に積極的な発言を繰り返すのも、自身の戦中戦後の体験がベースになっています。

7章「きのうの ちばてつや 今こそ伝えたい、次世代へのメッセージ!」
“自らの命を燃え尽くす程の情熱”をかけてボクシングに挑み、散っていったジョー。もちろん漫画の世界ですが、現在のわたしたちにとっても心にずっしりと響く場面がいくつもあります。
ただ、若い人の中には、作品のタイトルしか知らない人もいるようで、これは由々しき事態です。世田谷文学館だけでの開催なので、お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年1月21日 ]