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    ミュシャ芸術博覧会
    堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市立文化館) | 大阪府

    大阪でいつもミュシャの作品に会える美術館をご存知でしょうか?JR堺市駅と歩道デッキで直結した高層ビルの一角にある「堺 アルフォンス・ミュシャ館」です。

    日本で人気の高いアルフォンス・ミュシャ(1860~1939)のマルチな才能を示す展覧会『ミュシャ芸術博覧会』を訪ねました。



    堺 アルフォンス・ミュシャ館入口


    今回は1900年のパリ万博会場「グラン・パレ」と「プティ・パレ」に見立てて展示室が構成され、油彩画、リトグラフから工芸宝飾作品まで幅広いジャンルの作品を鑑賞できる楽しみがありました。

    まずは1900年パリ万博のオーストリア館の宣伝ポスターや大型油彩画の《ハーモニー》。縦約1.5m、横約4.5mの迫力ある作品は晩年の《スラヴ叙事詩》につながる思考が見受けられます。中央背後に浮かび上がる女性の意味するものを謎として記憶すると他の作品にも登場するモチーフだとわかります。ミュシャが意図した調和の象徴なのでしょうか?



    《1900年パリ万博のオーストリア館》 1900年 OGATAコレクション



    《ハーモニー》1908年 堺アルフォンス・ミュシャ館


    また、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ館壁画の下絵も並びます。紙に描かれた墨絵ですが民族の色濃い表現と群像に力強さを込めた線が印象的です。羊飼いの少年が抱える羊の表情(眉間に皺!?)にちょっと笑いながら鑑賞。

    そして大きな不思議な作品はミュシャの友人ウミロフ氏の家にあった暖炉の壁を飾る《ウミロフ・ミラー》で、ここにも記憶したモチーフが描かれています。



    《1900年パリ万博ボスニア ヘルツェゴビナ館壁画 (下絵)》1899-1900年 堺アルフォンス・ミュシャ館



    《ウミロフ・ミラー》1900年代 堺アルフォンス・ミュシャ館


    リトグラフ作品はミュシャを代表するイメージです。アールヌーヴォーの巨匠とも言われ、流れる曲線の髪や衣装を纏う女神、背景を彩る季節の花や自然。そして天空に瞬く星や月のモチーフに埋められたポスターはあまりにも有名です。

    ただ美しさを象徴するのではなく動きや姿勢を保つ筋肉の表現など、より生身に近い人物を描く観察力とデッサン力を感じます。女優サラ・ベルナールとの出会いからJOBなど広告ポスターなどミュシャのパリ時代作品は多くの人々の目に触れ、大人気を博します。商品は売れ、作品依頼も押し寄せ大変な仕事量をこなすことになりました。



    デッサン画の展示風景



    アールヌーヴォーの雰囲気を出す展示室



    左:《椿姫 レプリカ》 右:《ロレンザッチオ》 1896年 堺アルフォンス・ミュシャ館



    代表的リトグラフ作品群の展示風景



    《音楽:四芸術》1898年 堺アルフォンス・ミュシャ館


    一方、今回の展示には初期の時代の絵本や書籍の挿絵、陶器、宝飾品や彫刻に至るまで多種多様な作品も出展されています。絵本『白い象の伝説』の挿絵下絵は印象深く、サラのお気に入りの《蛇のブレスレットと指輪》やロダンの影響を感じるブロンズの《岩に座る裸婦》もとても素敵です。



    チェコスロヴァキアの記念切手、封筒



    陶器などの工芸品も貴重


    こうして観てゆくと、ミュシャはマルチアーティストであることがわかります。絵コンテを描き、群像表現で場面をつくる舞台演出ができそうです。何といっても自ら広告ポスターやチケットまでデザインし、宣伝もできます。現代の万博やオリンピックのセレモニーを任せてみたらどんなステージを演出してくれるのかワクワクしませんか?

    1910年、チェコに帰国したミュシャは人生の超大作となる20点の《スラヴ叙事詩》に取り組みます。民族の伝承とスラブ神話の融合を根底にしたいわば宗教画のような傑作です。最晩年は不遇の生活を送ることとなりましたが、“ミュシャスタイル”と呼ばれる画風はますます継承発展し、現代のアーティストたちに受け継がれています。

    ただ美しいだけでなく訴えるテーマが共感と次世代への躍動感を生んでいることが人気の秘密なのではないかと思います。2026年プラハの中心地に《スラヴ叙事詩》20点の恒久展示施設が建設予定という素敵なニュースもあります。


    堺 アルフォンス・ミュシャ館では年3回の企画展を通じ、約500点のミュシャコレクションと様々な関連作品を展示しています。なぜ堺に?というのは、株式会社ドイ(カメラの土井)創業者土居君雄氏ゆかりの地であったので堺市が展示場所の誘致したことによるそうです。

    高層マンションビルの一角2フロアという限られたスペースではありますが、常設の貴重なスポットであり、イベントプログラムも積極的に開催されています。手元におけるオリジナルグッズや図録、画集も販売され、“おうちにミュシャ”でお勧めです。次回は11/20よりミュシャデザインを追求する展覧会が予定されています。


    今日も鑑賞の余韻をネルドリップ式で丁寧に抽出された一杯のコーヒーと共に、思い返しながらの時間を過ごしました。



    ミュシャがいっぱい!ミュージアムショップ



    駅近くのカフェで一息


    [ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年7月31日 ]


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    会場
    堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市立文化館)
    会期
    2021年7月31日(土)〜11月14日(日)
    会期終了
    開館時間
    9:30~17:15(入館は16:30まで)
    休館日
    月曜日(休日の場合は開館)、休日の翌日(8月10日、9月21日、9月24日、11月4日)、 展示替臨時休館日(9月14日・15日)
    住所
    〒590-0014 大阪府堺市堺区田出井町1-2-200 ベルマージュ堺弐番館
    電話 072-222-5533
    公式サイト https://mucha.sakai-bunshin.com/event/mucha2021ex2/
    料金
    一般510円 高校・大学生310円 小・中学生100円 
    ※小学生未満、堺市内にお住まいの満65歳以上の方、障がい者手帳をお持ちの方と介助の方は無料 
    ※その他各種提携割引制度あり
    展覧会詳細 「ミュシャ芸術博覧会」 詳細情報
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