
会場風景
砧公園の木々の中、世田谷美術館——通称「セタビ」の森にはさまざまな動物が潜んでいます。 と言うのも、あながち間違いではありません。この春に開催される企画展「わたしたちは生きている!セタビの森の動物たち」は、世田谷美術館が所蔵する動物の絵を集めたコレクション展だからです。
緑豊かなミュージアムは「森」のイメージにぴったり。実際に、2021年に美術館の職員通用口に迷い込んだ子ダヌキの映像を見たことがある人もいるのでは?
本展は「子どもたちに美術館に来てほしい!」という思いから、教育普及担当のスタッフを中心に企画されました。コロナ禍ではオンラインの美術コンテンツが注目を集めた一方、このままでは子どもたちが生の作品を見ないまま大人になってしまう、という危機感が生まれたのも事実です。
子どもたちをターゲットにした展覧会は、一体どのような空間になったのでしょう? 本レポートで内覧会の様子をお届けします。

ポップな印象の展覧会タイトルバナー
世田谷区の人々と作り上げたエントランス
世田谷美術館に来慣れている人も、今回のエントランスには驚くかもしれません。
左右と頭上を賑やかすのは、世田谷区立塚戸小学校の5年生が思いを込めて出現させた動物たちです。およそ150匹の動物全てにQRコードが付いており、スマートフォンで読み取ると子どもたちが込めた思いを読めます。自由な発想、独自の世界観に思わずニッコリ。
設営は世田谷美術館のボランティアスタッフが手がけたそうです。

エントランスを賑やかす多種多様な動物たち
特徴的なランドスケープの空間では、左右の窓を開けるのが10年ぶりにもなるのだとか。窓の外に見える砧公園の丘には時々本物のカラスがやってきて、彫刻の鳥たちの景色と重なり合います。生い茂る草木をバックにすれば、作品たちは本当に自然の中で生きているようです。
遠くから西日の射す夕暮れ時もおすすめです。

柳原義達の作品の展示風景
鳥たちに誘われて、森の奥深くへ。日本画から西洋絵画まで幅広く、さまざまな動物の姿を楽しめます。

第1章「とりたちのうた」が左右を飾る展示通路

第2章「人とともに」から第3章「思いをのせて」の展示風景
第5章「ねこの園」は猫の作品だけを集めた空間。猫好きの人は必見です。中でも、稲垣知雄は注目される機会が多くはないものの、世田谷美術館には稲垣の版画全点が収蔵されています。

(右)ペリクレ・ ファッツィーニ《背を搔いている猫》1953年

稲垣知雄《猫の肖像(C)》1975年
第4章「いのちの森」
第3章の展示室から第4章「いのちの森」のエリアへ足を進めるとき、舞台が場面転換したような感覚を覚えます。目線の先には鬱蒼と茂る夜の森、じっと目を凝らせば梢の間に一羽の鳥が見えます。
静寂の中に身を委ね、深呼吸すれば森の香りが漂ってくるようです。ベンチに腰掛けて輝く夜空を眺めれば、いつか遠い昔に星になった動物たちの魂に思いを馳せずにはいられません。
ここに展示されているのは、生命そのものをテーマとした作品。限りある命を作品の形に留めることは、言うなれば“永遠の命”への切なる願いであり、祈りとも呼べるもの。
存在しないと分かっていても、永遠性に憧れてしまうわたしたちの心に深く染み入ります。

(手前)戸谷成雄《森Ⅳ》1991-1992年/(奥)柳原義達《道標・鳩》1979年

(左から)小堀四郎《無限静寂(宵の明星ー信)》1977年/小堀四郎《無限静寂(深夜の星ー望)》1977年/小堀四郎《無限静寂(暁の星ー愛)》1977年
作って遊ぶ!ワクワク楽しむ!参加コーナーにもご注目
展示室の最後には、参加コーナー「みんなでつくるセタビの森」があります。紙と色鉛筆を手に、まずは自由に絵を描いてみましょう。テーマは「心の中の動物」。もちろん、この世に存在しない生き物だっていいのです。
生まれた動物はセタビの森に放ってあげましょう。三方向の壁を覆う段ボールの森林で、好きな場所にテープで貼ることができます。丘の上、水辺、木の葉の中。あなたの動物はどこに潜んでいるでしょう?
会期中の毎週土曜日には、100円で自分の描いた絵からオリジナルカンバッチを製作できます。他にも、さまざまなワークショップやパフォーマンスを開催予定です。TwitterやInstagramなど、公式SNSも是非チェックしてみましょう。

記者もお絵描きにチャレンジ!

キュートなカンバッチはお土産にぴったりです。
お子様とご一緒の春のお出かけにもおすすめ
会期は春休みシーズン真っ只中。
「わたしたちは生きている!」 高らかなその声は生命力に満ち溢れ、たしかに今ここで生きている動物たちの存在1つ1つを感じさせます。 そして生きていることは、この展覧会を見ている“わたしたち”も同じ。 展覧会は4月9日(日)まで。さあ、森の中へ出かけてみましょう!

ミュージアムショップのアニマルグッズも是非手に取ってみましょう。
[ 取材・撮影・文:さつま瑠璃 / 2023年2月17日 ]
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