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    秋の大阪で赤と黒の漆の美を愛でる ― 特別展「NEGORO 根来 - 赤と黒のうるし」
    大阪市立美術館 | 大阪府

    大阪市立美術館 エントランス
    大阪市立美術館 エントランス


    しっかりと作られた下地の木地に黒漆を下塗りし、その上から朱漆を塗った朱漆塗漆器(朱漆器)のことを一般的に「根来」と呼ばれています。長い間使われて朱漆が磨り減って下の黒漆が現れ、ある種味わいとなって人々を魅了してきました。かつて根來寺(和歌山県岩出市)で作られていたという伝承から「根来」「根来塗」の名がついたと伝わっています。

    本展では、「根来とはそもそもなになのか?」に立ち返ってみようという展覧会です。根來寺最盛期の中世の朱漆品と年紀や伝来の確かな作品でその美にも迫ります。

    中国伝来の器物の形を写した縁が花びらの形をした小ぶりの盆《輪花盆》から始まります。


    《輪花盆》大阪市立美術館
    《輪花盆》大阪市立美術館


    赤や黒の木漆製品は、7500年も遡ることができます。木工品に漆を塗布し、軽くて丈夫、防腐防虫、解毒の効用と赤い色には生命力や神秘的や呪術的な意味合いがこもり朱漆塗漆器は、神仏への捧げものや権力の象徴ともなりました。


    第1章 「根来の起源」展示風景:左:国宝《唐櫃(熊野速玉大社古神宝類のうち)》南北朝時代 明徳元年(1390)和歌山 熊野速玉大社、右:《唐櫃》個人蔵/子守宮伝来 展覧会初出陳
    第1章 「根来の起源」展示風景:左:国宝《唐櫃(熊野速玉大社古神宝類のうち)》南北朝時代 明徳元年(1390)和歌山 熊野速玉大社、右:《唐櫃》個人蔵/子守宮伝来 展覧会初出陳


    衣類や文書類、調度類の収納具である櫃、熊野速玉大社の神様に捧げられた宝物です。右手の「唐櫃」は、近年発見されたもので、これも熊野速玉大社伝来の唐櫃ではないかと考えられています。

    朱漆器の瓶子は、神に献酒するための神饌具で、通常は二口一対で神前に供えていました。


    第1章 「根来の起源」瓶子展示風景:《瓶子》所蔵先左から 個人蔵、個人蔵、滋賀・MIHO MUSEUM、東京・サントリー美術館
    第1章 「根来の起源」瓶子展示風景:《瓶子》所蔵先左から 個人蔵、個人蔵、滋賀・MIHO MUSEUM、東京・サントリー美術館


    サントリー美術館蔵とMIHO MUSEUM蔵の瓶子は一対であったと考えられています。金属や陶磁製の「瓶子」の形状を継承した優美なフォルムにもご注目!


    第2章「根来とその周辺」展示風景:正面 和歌山県指定文化財《丹生明神坐像》鎌倉時代 13世紀 和歌山 龍谷寺
    第2章「根来とその周辺」展示風景:正面 和歌山県指定文化財《丹生明神坐像》鎌倉時代 13世紀 和歌山 龍谷寺


    《丹生明神坐像》は、三谷薬師堂に伝来した女神像です。このかつらぎ町三谷は、丹生明神が最初に降臨した地で、「丹生」のつく地は水銀朱(丹)とかかわりが深く、本像は根来のような朱漆塗の製造にゆかり深い女神像と考えられています。

    平安末期覚鑁(かくばん)上人によって開創された根來寺は、新義真言宗の聖地として発展し、強大な寺社勢力となり、天正13年(1585)豊臣秀吉の焼き討ちにあい、全山焼失してしまいました。かつて大宗教都市を形成し、教学だけでなく、根來寺周辺で生産、集積された文物、技術も各地へ伝播していきました。


    《菓子器》安土桃山時代 天正元年(1573)名古屋市博物館/興福寺一乗院伝来
    《菓子器》安土桃山時代 天正元年(1573)名古屋市博物館/興福寺一乗院伝来


    蓋と身が揃うこの菓子器は、中国・宋元の時代に流行した鎬文様のある陶磁器・酒会壺を写したとされています。根來寺防院跡からも青磁のものが出土しています。

    「根来に根来なし」と言われるほどに、根來寺に「根来」の品はなく、発掘調査でも寺内には工房跡などは見つかっていません。


    『紀伊国名所図会 三編 一之巻』加納諸平編(1806–1857) 江戸時代 天保9年(1838)和歌山県立博物館
    『紀伊国名所図会 三編 一之巻』加納諸平編(1806–1857) 江戸時代 天保9年(1838)和歌山県立博物館


    紀伊藩領と高野山寺領を掲載した江戸時代後期の地誌『紀伊国名所図会』の三編一之巻には「根来椀」の条があり、「根来塗」の語の初出史料です。従来は明治11年刊黒川眞頼『工藝志科』が初出とされていました。

    明治の廃仏毀釈の影響を受けて、仏教寺院で使われていた「根来」の多くが寺外に流出し、経年によって朱が磨滅して黒漆が露出した根来を美的な景色として愛でるようになりました。


    《大盤》滋賀 MIHO MUSEUM/松永耳庵旧蔵、『手仕事の日本』柳宗悦(1889–1961)靖文社・初版 昭和23年(1948)個人蔵
    《大盤》滋賀 MIHO MUSEUM/松永耳庵旧蔵、『手仕事の日本』柳宗悦(1889–1961)靖文社・初版 昭和23年(1948)個人蔵


    近代数寄者の一人松永耳庵旧蔵の《大盤》は、東大寺伝来と伝わり仕上げの上塗りが完成されていない製造途中の品です。茶人たちは古染付の虫喰のようにここに面白味を見出していたのでしょうか。「用の美」を提唱した民藝の柳宗悦が『手仕事の日本』で根来塗を掲載し、民藝もその人気に一役買いました。

    本展では、随筆家の白洲正子や映画監督の黒澤明、日本画家橋本関雪の旧蔵品も展示され、根来は多くの著名人も魅了したようです。


    根来塗制作工程見本(全26工程)池ノ上辰山(1959–)令和7年(2025)和歌山 岩出市民俗資料館
    根来塗制作工程見本(全26工程)池ノ上辰山(1959–)令和7年(2025)和歌山 岩出市民俗資料館


    根来塗が仕上がるまでの過程を十段階に示した工程見本です。漆の下地を何度も繰り返す、26ある工程のうち19の工程が下地の処理にあり、根来が堅牢と言われる所以がここにあります。

    本展エピローグとして展示されるのは、根来の経箱に古代の墳墓から出土したガラス玉を敷詰めた現代美術家・杉本博司の作品でした。


    《瑠璃の浄土》杉本博司(1948–)平成17年(2005)神奈川 小田原文化財団
    《瑠璃の浄土》杉本博司(1948–)平成17年(2005)神奈川 小田原文化財団


    [取材・撮影・文:SANA / 2025年8月28日]


    会場
    大阪市立美術館
    会期
    2025年9月20日(土)〜11月9日(日)
    もうすぐ終了[あと8日]
    開館時間
    午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
    休館日
    月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日休館) ※災害などにより臨時で休館となる場合があります。
    住所
    〒543-0063 大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82【天王寺公園内】
    電話 06-4301-7285
    公式サイト https://www.osaka-art-museum.jp/sp_evt/negoro
    料金
    一 般 1,800円(1,600円)
    高大生 1,300円(1,100円)

    ※( )内は前売および20名以上の団体料金。
    ※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)。
    ※大阪市内在住の65歳以上の方も一般料金が必要です。
    ※特別展観覧料で企画展示もご覧いただけます。



    [チケットの主な販売場所]
    ①公式オンラインチケット
    ②ローソンチケット(Lコード:53680)
    ③チケットぴあ(Pコード:687-299)
    ④セブンチケット(セブンコード:111-755)
    ⑤CNプレイガイド
    ⑥イープラス
    ※チケットの購入時に手数料がかかる場合があります。
    展覧会詳細 「NEGORO 根来 - 赤と黒のうるし」 詳細情報
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