「わたしたちは日々、様々な情報に触れている。」この一節を読んだ時、どのようなものを日々触れている情報と捉えるでしょうか。
現代の私たちの日常は、インターネットの発達により世界中の人とつながることが容易になり、訪れることのできない場所で起きている出来事をリアルタイムで知ることができるようなりました。一方で、SNSをはじめとした視聴覚情報にその多くの割合がとられていると感じる人も多いのではないでしょうか。自らの身体を通した「一次情報」としての経験が希薄になってしまう時代に私たちは生きているとも言えるかもしれません。本来確かなものであるはずの一次情報としての感覚や経験に不確かさを感じ、他者と異なることに不安や焦りを感じてしまうのかもしれません。
本展では「触れる」をテーマに、様々な表現者のその手つきをたどります。美術家や工芸家自身も素材や道具、または歴史や記憶といった対象に「触れる」という感覚から創作が出発することも多いことでしょう。そして、それは私たちの感覚にも通じるため、時に心動かされ、言語化しにくい原初的な感覚を引き起こすのかもしれません。また、「触れること」は身体的接触だけではなく、自己の内面、感情や記憶、または歴史や文化など形を持たないものに向き合うことでもあります。それは感覚を頼りに自らのもとへ手繰り寄せる行為であり、自己や他者、そして世界との実感を伴った向き合い方につながるはずです。多様な側面から私たちの感覚、そして創造力を通して物事に触れることについて考えるきっかけとなることを目指します。