世界の海を舞台に、美しい海中の風景や、海の生き物たちが見せる一瞬のドラマをひたむきに撮り続ける中村征夫。海の自然を軸としながら、東京湾や水俣湾、石垣島・白保、ナホトカ号重油流出事故、諫早湾など人間と海をめぐる社会的なテーマにも取り組み、海の魅力と環境問題を伝えるなど、「水中の報道写真家」としても高い評価を得ています。本展覧会は、「東京湾」「日本列島海中百景」「海中顔面博覧会」「沖縄珊瑚街道」「水中の賢者たち」「海の中へ」など、中村氏の40年間にわたる水中写真家活動で撮影された秀作のなかから、さらに厳選した代表作品に撮り下ろしの最新作を加えた約200点で構成されたまさに集成展というべき内容となっております。
海洋が地表の約7割を占める地球は「水の惑星」とも呼ばれています。今から38億年前に最初の生命が海に誕生して以来、大いなる海は常に生命進化の舞台となってきました。変化と美しさ、そして神秘さに富む海は、自然の宝庫であると同時に生命の源でもあります。身近な海から世界の珊瑚礁、多様性に富む海を見つめ、海中の多彩な美しさ、そこに生息する貴重な生き物たち、その貴い価値をフィルムに刻み込んできた中村征夫。本展覧会はその豊穣な写真世界を一望する絶好の機会となるとともに、私たちの「母なる海」の環境を再考する契機となることでしょう。
中村氏は、1945年に秋田に生まれ、写真とダイビングを独学で学び、専門誌のカメラマンを経て、フリーとして活躍を始めました。以来、国内外の海や自然、人びとや環境を精力的に取材し、海の中にも社会性のあるテーマを見出し、今なお第一線で活躍しています。同時に彼の「海のナチュラリスト」としての視点から生み出された作品群は、環境破壊の問題に早くから警鐘をならし、過去から未来への指標を示してくれるものです。