およそ服飾というものは、その時代を生きる人々によって成り立ち、変容を見せるものです。時々刻々移り変わる流行には、政治・経済・文化等社会の諸要素が多分に影響しており、その時代独自の風俗を作り出しました。江戸時代においては、染織技術の向上が生産能率を上げ、出版という情報伝達経路が流行の指標を作りました。また、流行の新たな担い手として、経済力を身に付けた新興町人層が台頭してくるのも当代服飾界の特徴のひとつです。財力ある町人層の豪奢な装いは、質素・倹約を掲げる幕府が禁令をもって幾度となく咎めましたが、その効果は低く、すぐさま禁令を掻い潜るような新たな風俗が生み出されていきました。
こうした江戸の服飾風俗は、その中核に「小袖」を据えて展開してきました。小袖とは今日の「きもの」の祖型です。元来、小袖は公家階級の下着として、庶民の実用着として着用されていたものでした。それが階級を問わず表着として広く普及し、江戸時代初期には男女共通の表着として定着します。表着となった小袖は、多種多様な文様を生み出し、形状の変化を伴ってその時々で流行のスタイルを作り出していきました。
一方で、当時のいわゆるファッション小物「袋物」が著しい発展を見せます。我々が鞄や時計・財布等にこだわりを持つように、江戸の人々もまた装飾小物に強い関心を持っていたのです。代表的な袋物として、「煙草入れ」・「懐中鏡入れ」・「紙入れ」・「筥迫」などが挙げられます。これらのデザインは多彩で奇抜、今尚見る者を魅了して止まない意匠の数々が色褪せずに息づいています。
本展では、江戸時代の女性の服飾風俗の変遷を追うと共に袋物を多数展示いたします。江戸職人の粋を極めた至高の工藝品ほか、浴衣の型紙や古裂帖など、この機会でなければご覧いただけない選りすぐりの作品をご紹介いたします。