酒井抱一(1761-1828)は、譜代大名・酒井雅楽頭家の二男として江戸に生まれました。文芸を重んじる酒井家の家風を受け、若き日より俳諧や書画をたしなみ、二十代で狂歌や浮世絵などの江戸の市井文化にも手を染めた抱一は、三十七歳で出家して自由な立場に身を置きます。そのころから、宗達、光琳が京都で築いた琳派様式に傾倒し、江戸後期らしい新たな好みや洗練度を加えた、今日「江戸琳派」と呼ばれる新様式を確立していきます。風流で典雅な花鳥画を得意としながらも、風俗画や仏画、吉祥画や俳画などさまざまな主題や作風に対応しうる柔軟性を持ち、多くの文化人との関わりながら、独自の世界を作り上げました。
抱一の没後も江戸琳派は実に一世紀近く命脈を保ち、特に高弟の鈴木其一(1796-1858)や、池田孤邨(1801-1866)らの幕末期の活躍は、近年大きな注目を浴びているところです。
本展は、抱一の生誕250年を記念し、代表作の《夏秋草図屏風》(重要文化財)をはじめとする優品の数々や、琳派展の文脈では視野から外されていた多様な作品を新出資料も含め多数紹介し、その画業を回顧します。あわせて、鈴木其一ら後継者たちの個性も紹介し、江戸琳派の流れと近現代まで伏流となって生きつづけるその美意識を探ろうとするものです。
出品総数は300点以上で、うち抱一作品は約160点、其一作品は約60点です。会期中には二回展示替えを行います。酒井抱一展として過去最大の規模、総合的な江戸琳派展としては初めての機会となります。