世界的に注目を集めているソフィ カル。写真と言葉で構成した物語性の高い作品で知られています。原美術館では、「限局性激痛」(1999-2000)に続き、「最後のとき/最初のとき」(2013)と、個展が2度開催されました。
目を惹くタイトル「限局性激痛」とは、身体部位を襲う限局性(狭い範囲)の鋭い痛みや苦しみを意味する医学用語です。カル自身の失恋体験による痛みとその治癒を、写真と文章などで作品化。人間味あふれる作品は、かつての事業家・原邦造の邸宅だった同館にぴったりです。
会場は二部構成。カルは日本に三か月滞在できる奨学金を得て、1984年10月25日にシベリア鉄道で日本へ出発。92日後のフランス帰国まで、カル自身が思ってもみなかった、人生最悪の日へのカウントダウンが始まります。
第一部では、その出来事を最愛の人への手紙や写真で綴った作品を展示。写真の上に捺された「92 DAY TO UNHAPPINESS」の数字が、徐々に小さくなるにつれ、写真が美しく、楽しいものへと変化していく様子が不気味です。
正直ゾッとするのが、搭乗前に手にしたメッセージカード、その上に捺された「1 DAY TO UNHAPPINESS」の文字。ここから第二部へ続くのかと思うと、長くもない館内の階段を上る足が重くなりますが、続きを見に行きましょう。
続く第二部は、写真と刺繍で綴った作品。自らに起こった不幸を他人に語り、代わりに相手の辛い経験を聞くことで、自身の心を癒していく様子を作品にしました。カルの言葉がグレー地の布に。彼女の友人や、知人の言葉が、白地の布に刺繍されています。
カルの言葉が綴られているグレー地の布に注目すると、言葉を綴る糸の色が徐々に濃くなっています。最後は、その言葉が忘れ去られたように、布と言葉が同化。不幸な出来事を他人に話したことで、自身の傷が癒えたことを表しています。
取材前のカルのイメージは、失恋がつらく、めそめそと泣く女性でしたが、とんでもない! 展示されていた作品から見えるカルは、そんな可愛らしい乙女ではありませんでした。女性はもちろん、ぜひ、男性にも見てほしい展覧会です。
2月1日(金)に、カルが来館するトークイベントが開催されます。館長によると、歳を重ね20年前の「限局性激痛」の頃よりは性格は穏やかになったのではとのこと。詳細は決まり次第、公式サイトで発表されます。
個展も都内2か所で開催されています。ギャラリー小柳「ソフィ カル《Parce Que》(なぜなら)」(会期:2/2~3/5)、ペロタン東京「ソフィ カル《Ma mére,chat,mon pére,dans cet ordre.》(私の母、私の猫、私の父、この順に。)」(会期:2/2~3/11)。ギャラリー小柳では、新作を発表も発表されます。性格は丸くなっても、作品の尖りは健在との事です。ぜひ、本展と合わせて、ソフィ カルの世界をご覧ください。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2019年1月8日 ]