京都市北区の『大谷大学博物館』を訪ねました。鞍馬山を遠望し、東に賀茂川の流れる自然豊かな静かな環境です。京都市地下鉄北大路駅すぐの北門から入ってみましょう。
響流館(こうるかん ※釈尊の真実の覚りが十方に響き流れるという『無量寿経』の言葉から命名)1階に博物館はありました。

大谷大学北門は地下鉄からすぐで便利

企画展チラシ裏面
今回は日本画家・畠中光享氏(1947~ )の作品展です。2019年12月、真宗大谷派(東本願寺)御休息所に寄進された襖絵や掛軸を中心にした展覧会です。御休息所とは門首や鍵役が出仕前に控える部屋で、一般の参拝者はもちろんのこと限られた僧侶しか出入りできない場所です。
その貴重な作品群を、自らも僧侶であり大谷大学卒業生である立場から、一般公開のチャンスを作ってくださった次第です。釈迦の一生を題材とした大作が並び、近くでじっくり展観できる贅沢さを感じます。
釈迦の体や教えの象徴として解釈される背景色(青黄赤白黒緑)に大きく伸びやかに描かれた女性が並んでいて、躍動感ある表現は私達を仏教の教えに誘います。

左より 《青色青光》2021年 《黄色黄光》2020年 《赤色赤光》2020年 《白色白光》2020年 いずれも2曲1隻

左より 《緑色緑光》2021年 《黒色黒光》2021年 いずれも2曲1隻
釈迦の住居である寺院を表す《祇園精舎香堂趾寂静》は深い群青色に漆黒の樹影と白い月影がぽつり。特殊な岩絵具だと思われますが細かいきらめきも見えます。
また、釈迦が説法をした山を描いた《霊鷲山五山西方浄土観想》は深みを帯びた赤に黒く浮かぶ山が日没の瞬間を語ります。

《祇園精舎香堂趾寂静》2018年 襖4面 真宗大谷派(東本願寺)蔵
夏の早朝を感じさせる大輪の蓮が並ぶ《蓮華図》や、悟りを開いた菩提樹はこれから大樹になってゆく若き枝を描いています《菩提樹白道》。釈迦如来の生涯を表すゆかりの場所や自然に思いを馳せることができます。

《蓮華図》2018年 襖2面 真宗大谷派(東本願寺)蔵
畠中光享氏は仏教への深い造詣から多くの作品を制作しますが、インドやアジアへの訪問も画風に大きく影響を与えているようです。同じ場所に3度は訪れ、その季節や文化を感じて作画に取り組まれているとのことです。
特にインド染色品・更紗などは多くコレクションされ、その美しさと技術を絵画と共に公開されることもあります。
単色に見える背景でもよく見ると様々な陰影や細かな重ね塗りから深みが出ていて、色数は少ないのかもしれませんが立体感・奥行感がとても良く出ていて引き付けられる作品ばかりでした。平面の余白がいろいろと考えさせるのかもしれません。
また今回一番印象に残ったのが《一灯》4曲1双、仏に備える灯明がずら~っと並んでいます。ほぼ同じ大きさで規則正しく並んでいますがどれも同じものは無く、静かに向かえば炎が揺らめくような錯覚に陥ります。私の祈る声はどの灯明を通して響いていくのでしょうか・・

《一灯》2015年 4曲1双 個人蔵

《一灯》一部
大谷大学は1665年に東本願寺の学寮として京都の地に創立。一時東京巣鴨に移転を経て1913年に現在の場所へ。近代化100周年の記念事業の一環として2003年に真宗仏教文化財を中心に展示公開する博物館が開館しました。
所蔵する約12000点の貴重な資料は重要文化財10点を含め、テーマに沿って順次公開されています。大きなスペースとは言えませんが学生だけでなく周辺の住民や一般にも門戸を開く“大学ミュージアム”の一角を担っています。
キャンパスには塔を持つ赤レンガのシンボル(尋源館。登録有形文化財)がどっしりと陣取り、学びの伝統を見守っているかのようです。

大学のシンボル 赤レンガの尋源館
同窓会誌「無盡燈」の表紙を飾り、大学との関りも深い畠中光享氏の展覧会は、入館料は無料ですがWEBによる事前予約が必要です。作品も前期後期の一部入れ替えとなっています。
今後目にする機会が少ないと思われる襖絵を是非ご覧いただきたいと感じます。そして響流館の入口には常設の作品が1枚。先導者に続いて前へ進もうではありませんか!

《仏陀とその弟子(阿難)》1999年
さて、恒例の絵画鑑賞余韻は・・大谷大学正門のちょっと南、喫茶店「花の木」へ。
店の両側に入口のある小さな佇まいですが、なんと高倉健さんゆかりの喫茶店です。小さなポートレートがかかる壁を見ながら、コーヒーとクロワッサンをいただきました。

喫茶「花の木」のコーヒーブレイク
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年6月11日 ]
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