開館20周年の特別企画で平山郁夫展が開催される!さっそく三重県菰野町のパラミタミュージアムに行ってきました。 御在所岳や湯の山温泉にもほど近い、風光明媚なロケーション。池田満寿夫の陶芸「般若心経シリーズ」のコレクションでも有名です。館名の「パラミタ」は梵語の「波羅蜜多」に由来しているそう。
今回の展覧会は、平山郁夫美術館、平山郁夫シルクロード美術館の全面協力と力の入った企画なので、どんな作品に出会えるか楽しみです。

パラミタミュージアム外観
会場に入ると、まず目に飛び込んでくるのは瀬戸内の碧い海の風景。幅5mを超える大作です。 作品前に置かれた椅子に腰かけると、まるで小高い丘の上から瀬戸内の風景を見ているよう。
平山郁夫は幼い頃に眺めていた故郷、瀬戸内の海の光景を大切な原点としています。 1999年の「しまなみ海道」全線開通を記念して描かれた「瀬戸内しまなみ海道」シリーズの一点です。

『天かける白い橋 瀬戸内しまなみ海道』 平山郁夫美術館蔵
こちらは「平成の洛中洛外」シリーズを代表する作品。 日本文化の源流ともいえる古都・京都は、平山郁夫の大きなテーマのひとつです。
洛中とは京都の市中、洛外とは郊外のこと。京の風景や人々の様子を描いた洛中洛外図は、戦国時代から江戸時代にかけて数多く制作されてきました。 この大作は、いわばその平成版ですね。

『平成の洛中洛外』 平山郁夫シルクロード美術館蔵
洛中洛外図は伝統的に右隻に御所、左隻に二条城を描いたものが多く、この作品もその伝統に倣っています。 右隻に近づいてみると、昔ながらの御所の上には現代の街並みが広がっています。 砂子といわれる金粉を、いにしえと現代をわける「金雲」として巧みに使っているのがみてとれます。

『平成の洛中洛外』(右隻)部分
会場ではテーマごとに、平山郁夫の画家としての足跡をたどっていくように作品が展示されています。 キャプションには作家の言葉が添えられており、作品をより深く感じることができるよう工夫されています。

展示風景
平山郁夫の画業を振り返るとき、忘れてはならないのは広島での被爆体験です。 自身も原爆症に苦しめられ、その後20年間、悪夢のような記憶から広島には足を向けられなかったといいます。

『原爆ドーム』 平山郁夫シルクロード美術館蔵
すべての作品の根底に流れているものは「平和」。
「死ぬまでに一作でいいから平和を祈る作品を残したい」という願いから、仏教をテーマとして選び、その思いは仏教が伝わってきた道<シルクロード>シリーズへとつながっていきます。 どの作品にも平和な静かな光景の中に、凛とした意志を感じます。
きっとそれは平和への強い願いの現れなのでしょう。

スケッチする平山郁夫
平山郁夫のライフワークといえば、なんといっても薬師寺・玄奘三蔵院『大唐西域壁画』。 その下図が壁面いっぱいに広がる様は壮観です。 中央にある模型は玄奘三蔵院内部を再現したもの。

玄奘三蔵院『大唐西域壁画』大下図 展示風景
模型に近づいてみると、完成した壁画のミニチュアが。 会場壁面の大下図と見比べてみるのも興味深いですね。

玄奘三蔵院伽藍模型
三蔵法師が唐の都・長安を出発し、インドに到着するまでの長い道のりが描かれています。 平山郁夫自身も60回以上この道を歩いてきたといいます。 東から西へ険しい山や荒涼とした大地を越えて、三蔵法師の長い旅は続きます。

『大唐西域壁画』大下図 平山郁夫シルクロード美術館蔵
薬師寺で実際にこの壁画を見たのですが、唐からインドへの道のりとともに、朝から夜へと時間の流れが描かれていることに今回初めて気づきました。 スタートの長安・大雁塔では朝の光だったのが、敦煌、西域では昼間の風景に、やがてバーミアン石窟、デカン高原になると夕景となり、終着のインド・ナーランダでは月が出ています。

『大唐西域壁画』大下図 平山郁夫シルクロード美術館蔵
三蔵法師は唐を出発してから17年の歳月をかけ、再び長安に帰りました。 平山はその命がけの旅を追体験するためその地を実際に訪れ、4000枚ものスケッチを描いたといいます。20年の歳月をかけた、まさに「ライフワーク」でした。 ロバに乗った、こんな可愛い自画像も残されています。

『パミール高原を行くロバに乗る自画像』 平山郁夫シルクロード美術館蔵
平山作品の魅力を満喫できる貴重な展覧会でした。
パラミタミュージアムは、池田満寿夫の陶彫の常設やアートが点在するガーデンなど、見どころいっぱいの美術館。 高速のインターと近鉄「大羽根園駅」に近く、グルメ・温泉の総合リゾート「アクアイグニス」も徒歩圏内です。
新緑の季節、パラミタミュージアムでアートな休日をゆっくり楽しんではいかがでしょうか。

ミュージアム廊下風景
[ 取材・撮影・文:ぴよまるこ / 2022年4月2日 ]
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