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レポート
フィン・ユールとデンマークの椅子
東京都美術館 | 東京都
デザイン大国デンマークで「彫刻のような椅子」を手掛けたフィン・ユール
ユールの作品を展示するとともに、デンマークの家具デザインの歴史も紹介
椅子は本来、座るもの。デンマーク名作椅子に座れるエリアで体感できます

デザイン大国のデンマーク。1940年代から60年代にかけて歴史に残る優れた家具を生んでいますが、なかでもフィン・ユール(1912-1989)は、ひときわ美しい家具をデザインしたことで知られます。

デンマークの家具デザインの歴史と変遷をたどりながら、モダンでありながら身体に心地よくなじむフィン・ユールのデザインの魅力に迫る展覧会が、東京都美術館で開催中です。



東京都美術館「フィン・ユールとデンマークの椅子」


展覧会の第1章は「デンマークの椅子」。面積は九州ほど、人口は600万人足らずと小さなデンマークですが、教育・医療・福祉などの社会システムが発達し、充実した日常生活が優れた家具デザインを生んできたといえます。

デンマークの家具デザインの父が、コーア・クリント(1888-1954)。デンマーク王立芸術アカデミー家具科の初代責任者で、過去の優れた家具を研究して新たにデザインしなおす「リデザイン」の手法を確立しました。



(左から)コーア・クリント《フォーボーチェア》1914年 織田コレクション(東川町) / コーア・クリント《レッドチェア(モデル No.3758A)》1927年 織田コレクション(東川町)


デンマークでは19世紀末に生活協同組合連合会(FDB)が設立。食料品や嗜好品だけでなく、1900年頃からは家具も取り扱うようになりました。

オリジナルの家具を開発するため、1924年には「FDBモブラー」が設立されました。コーア・クリントに学んだボーエ・モーエンセン(1914-1972)が責任者となり、低価格で実用的でありながらモダンな家具が開発されていきました。



第1章「デンマークの椅子」 セクション4「FDBモブラー 、デンパルマネンテ」


1940年代から60年代にかけて、デンマーク王立アカデミーで学んだ若い世代のデザイナーや建築家は、目覚ましい活躍を見せました。

ボーエ・モーエンセン(1914-1972)、ハンス J. ウェグナー(1914-2007)、アルネ・ヤコブセン(1902-1971)、ポール・ケアホルム(1929-1980)などが、次々に名作を発表していきました。



第1章「デンマークの椅子」 セクション5「デザイナーたちの挑戦」 (上段右手前)ハンス J. ウェグナー《ヴァレットチェア》1953年 織田コレクション(東川町) / (下段右手前)ハンス J. ウェグナー《ベアチェア》1951年 織田コレクション(東川町)


フィン・ユールの作品が登場するのは第2章「フィン・ユールの世界」からです。もとは美術史家を目指していましたが、父親の反対もあり、アカデミーで建築を学習。家具デザインは独学です。

1937年に家具デザイナーとしてデビュー。展示会でさまざまな家具を発表しますが、斬新なデザインは保守的な家具職人などから痛烈な批判を受けました。ユールは抽象彫刻に感心を寄せており、その志向は有機的なフォルムの張りぐるみの椅子などにうかがえます。



(左から)フィン・ユール《ペリカンチェア》1940年 織田コレクション(東川町) / ポエトソファ《ペリカンチェア》1941年 織田コレクション(東川町)


フィン・ユールの代表作でもあり、デンマークを代表する椅子ともいえるのが《イージーチェア No.45》です。シート部とフレームの間に微妙な隙間があり、シートが浮いているようにも見える、エレガントな椅子です。

各パーツは細部まで美しい曲面に削り込まれており「世界で最も美しい肘をもつ椅子」とも評される芸術的な椅子です。



フィン・ユール《イージーチェア No.45》1945年 織田コレクション(東川町)


1942年、フィン・ユールはコペンハーゲン北のオードロップゴーに自邸を建設しました。壁や床は部屋ごとに淡い淡彩で塗り分けられ、もちろん家具は自らデザインしました。

窓からは緑豊かな森を眺めることができるこの家は、全体と部分の調和という、ユールのデザインに対する考え方がよくあらわれています。



第2章「フィン・ユールの世界」 セクション4「フィン・ユール邸」


1948年、ニューヨーク近代美術館の学芸員エドガー・カウフマン Jr.に出会ったユールは、他のデンマークのデザイナーに先駆けてアメリカ進出を果たします。

家具メーカーのベイカー・ファニチャー社と契約して《ベイカーソファ》などをデザイン。ニューヨークに新たに建設された国際連合本部のインテリアデザインも担当するなど、活躍の場を広げていきました。



(右)フィン・ユール《ベイカーソファ》1951年 織田コレクション(東川町)


展覧会最後の第3章「デンマーク・デザインを体験する」では、名作椅子に座ることができます。

クリントやヴァンシャーがリデザインした椅子から、モーエンセン、ヤコブセン、ウェグナー、そしてフィン・ユールらによる椅子などがずらり。照明器具もデンマークのデザインです。

「椅子は、誰かが座ってはじめて完成する」とは、ハンス J. ウェグナーの言葉。ぜひ体感してみてください。



第3章「デンマーク・デザインを体験する」


居心地のよい空間や楽しい時間を意味する「ヒュッゲ」というデンマーク語も、よく聞くようになりました。

より良い暮らしを目指すというのは、考えるまでもなくあたりまえのはずですが、まだまだ日本人は学ばなければならないとも感じます。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年7月23日 ]

第1章「デンマークの椅子」
第1章「デンマークの椅子」
第2章「フィン・ユールの世界」
第3章「デンマーク・デザインを体験する」
会場
東京都美術館 ギャラリーA・B・C
会期
2022年7月23日(Sa)〜10月9日(Su)
会期終了
開館時間
9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休館日
月曜日、9月20日(火) ※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室
住所
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
電話 03-3823-6921
公式サイト https://www.tobikan.jp/finnjuhl/
料金
一般 1,100円 / 大学生・専門学校生 700円 / 65歳以上 800円

※高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
※10月1日(土)は「都民の日」により、どなたでも無料
展覧会詳細 フィン・ユールとデンマークの椅子 詳細情報
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