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レポート
波涛を超えて ~伊八、海を渡る~
鴨川市郷土資料館 | 千葉県
波だけではない「波の伊八」
厚さがとれない欄間で、水の流れを巧みに彫った江戸時代の彫物大工、伊八。一般には「波の伊八」として知られますが、高い技術は波だけではありません。
「張良」横須賀市・真福寺蔵(部分)
「黄石公」「張良」横須賀市・真福寺蔵(部分)
「黄石公」「張良」横須賀市・真福寺蔵(裏面の「鯉」・部分)
「力士(阿)」「力士(吽)」鴨川市・鏡忍寺蔵
「波に犀(サイ)」個人蔵 ※展示は12/11まで
「牡丹に獅子(阿)」「牡丹に獅子(吽)」南房総市・某神社
「獅子」個人蔵
「恵比寿・布袋・大黒」鴨川市・舎那院
鴨川市郷土資料館外観

「彫刻大工の中では“関東に行ったら波を彫るな”と言われていた」「北斎は伊八に触発されて神奈川沖浪裏を描いた」などの逸話が伝わる伊八ですが、「"伊八=波"だけで論じられるのはもったいない」という、本展を担当した石川丈夫学芸員。展覧会タイトル「波涛を超えて」は、「波だけではない伊八を見て欲しい」という願いが込められています。


会場奥の力士像は、伊八20歳頃の作品。後年の作品と比べると表現の甘さが目立ちます。江戸から離れた鴨川で、伸び伸びと制作することが許された伊八。多くの仕事で自分の表現を模索しながら、着実に腕をあげていきました。


会場入口から。奥は鴨川市・鑑忍寺の「力士(阿)」「力士(吽)」


伊八の技量を示す大作が、横須賀・真福寺にあります。老人(黄石)が川に落とした靴を張良が拾おうとする、中国の故事をテーマにしました。


左右に張り出した大樹、川の中の靴に手を伸ばす張良と、靴の中で跳ねる水、体重を杖に預ける老黄石、橋の間には得意の波と、動きがある場面を生き生きと表現しました。


欄間の制約を感じさせないダイナミックな躍動感こそ、伊八の真骨頂。この欄間は裏側もあり、さらに厚みが取れない中で波間を泳ぐ鯉を彫り上げています。


横須賀・真福寺の「黄石公」「張良」


横須賀と杉並区の各1点を除くと、伊八はほぼ南房総のみで活動していたと思われていましたが、近年、従来の説を覆す発見が相次いでいます。


昨年、熱海で伊八の作品を発見。次いで湯河原でも見つかり、その活動の範囲が一気に広がりました。


地方で過ごした“知られざる凄腕”ではなく、相模灘を渡っていた伊八の世界。「波涛を超えて」に込められた、もうひとつの意図です。


伊八のさまざまな作品。縦型の「竜」「鯉」が、湯河原で見つかったもの


会場には純粋な立体彫刻も紹介されています。厚みが無い欄間で技を磨いた伊八。制約が無い立体像では、その技量はさらに冴えわたります。


隙あらば飛びかかろうと左前脚を上げた獅子。伊八が仏壇彫刻を手掛けた個人宅にあったものです。骨格が浮かびあがった背中は迫力たっぷり。うねるような尾は、いかにも伊八らしい表現です。


伊八が作った獅子で、完全な立体像として確認されているのは、この一点のみ


鴨川市郷土資料館では、常設展示でも伊八の作品を紹介しています。


伊八が21歳頃の作品と考えられている「恵比寿・布袋・大黒」は、実際に取り付けられていた高さで展示されています。三体ともやや下方を向いていますが、欄間を見上げることを計算して彫られていたことが分かります。


鴨川市・舎那院の「恵比寿・布袋・大黒」


制作年を詳細に調べると、極めて手際よく仕事を進めていた伊八。工房を組織して活動の幅を広げ、広いマーケットに挑みました。その姿は「納得がいくまでコツコツ掘り続ける芸術家」というよりは「施主の求めに迅速・高精度で応じ、信頼で仕事を広げた辣腕ディレクター」が近いのかもしれません。


まだ分かっていないことも多い伊八の実像。今後の研究も待たれます。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年12月11日 ]


小説 波の伊八

林 太郎 (著)

東銀座出版社
¥ 1,500

会場
会期
2013年11月16日(土)~2014年2月16日(日)
会期終了
開館時間
午前9時~午後5時
休館日
11/18・25 12/2・9・16・24・29・30・31 1/1・2・3・6・14・20・27 2/3・10・12
住所
千葉県鴨川市横渚1401-6
電話 0470-93-3800
公式サイト http://www.city.kamogawa.lg.jp/
料金
一般200円(140円) 小・中・高校生150円(100円)
小学生未満・無料 鴨川市民・無料
※( )内は20人以上の団体
展覧会詳細 波涛を超えて ~ 伊八、海を渡る ~ 詳細情報
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