ハンガリーの名窯 王侯貴族が愛好したヘレンドの歴史
「ヘレンド」と聞いてどんな食器を思い浮かべますか? 洋食器ファンなら「アポニ―・グリーン」はおなじみ? 認知度は知る人ぞ知る感じでしょうか? そんなヘレンドの今に至る190年の歴史を俯瞰して見せる展覧会のプレス内覧会に参加しました。
展示は、時代とともに変わる経営者と作風の歴史を追った7章で構成。会場の壁は章ごとに色分けされているので目安になります。
先発のヨーロッパの名窯に遅れること100年 追いつくための秘策は?
ヨーロッパには「マイセン」「セーヴル」といった先行する名窯がありました。「ヘレンド」は100年遅れて出発。いかにして追いつくか、「補充・補修」を充実させるという道を切り開きます。磁器は必ず割れて欠損します。それを忠実に再現して提供することにしたのです。
▼カップの持ち手が取れ金属で補修(写真右) 絵付けはマイセン窯を彷彿とさせる
色絵金彩花束文ティーセット 1846年以降 ブタペスト国立工芸美術館
補修は自社の製品だけでなく他社のものまで引き受けるという大胆な戦略は大当たり! 壊れた他社製品を手元でじっくり研究できます。素材や技術など膨大なデータを蓄積して、同じような作風の磁器が制作できるようになりました。
▼風景画を描くセーヴルの絵付けを参考にした作品
《色絵金彩「バラトンフュレド風景」図コーヒーセット》1860年代 ブダペスト国立工芸美術館
▼今回の目玉展示の一つ、マイセン様式を忠実に再現した水差
《色絵金彩浮彫「水の寓意」飾り水差》(「4大元素シリーズ」より】1846年 ヘレンド磁器美術館
このように上流階級の間に伝わった芸術品の複製に乗り出し、技術を向上させながら、万博に出品して名声を手に入れます。修復品を納品する際、別添えで自社品を送るというビジネスセンスは、狩野元信がビジネス基盤を作った戦略を思い出させます。
超絶技巧は日本だけじゃない! ヘレンドの「透彫り」技術に驚愕
明治時代の超絶技巧が今、注目されています。それは日本人の器用さや繊細さによるものと、思っていました。ところが、遠くハンガリーの地で、超えてるかも! と思うような技術を目の当たりにしました。ヘレンド最高峰の装飾技術の一つ「透彫り」だけにスポットをあてて、時代を追って変化を見てみます。
●【Ⅱ】モールフィッシェル時代(ヘレンドのビジネス基盤ができ、東洋の磁器を手本に制作)
▼【1860年頃】 一人用コーヒーセットのトレーとカップ受けに緻密な透彫が見られます
《色絵金彩「皇帝」文コーヒーセット》1860年頃 ブダペスト国立工芸美術館
▼【1860年頃】 平たい円筒形の胴に透彫りで外側を囲む二重構造がこの時代に登場
色絵金彩「伊万里」様式人物飾り蓋容器 1860年頃 ブダペスト国立工芸美術館蔵
▼【1860年頃】「六角形」と「楕円」が組み合わさったより複雑な透彫りに
《色絵金彩人物図透彫皿》 1860年頃 ブダペスト国立工芸美術館
▼【1870年頃】さらに大きく彫られた透彫りに、カーブした口縁。より高度な技術に進化
《色絵金彩虎図透彫脚付果物鉢》 1870年頃 ブタペスト国立工芸美術館
▼【1874年】 透彫りが2重構造に。内側の赤と金と、外の枠で、皿の絵を効果的に引き立てる
色絵金彩庭園図透彫皿 1874年
●【Ⅲ】ヘレンド最高峰の技術「ウエールズ文様」の確立
ウエールズ文様とは、精緻な透彫りの装飾を施した外壁で囲われれた二重構造のこと。中国の清時代の蜂の巣をモチーフにした作品を手本に、透彫りにしました。さらに外壁に金彩、エナメル彩などを加えます。内壁にも、ネオ・ロココ趣味の装飾が施され、素地が乾く前に透彫りと張り合わせて二重構造に。ヘレンドの高い技術の中でも贅沢の極みといえます。
▼【1875年頃】透彫りの二重構造 モチーフの細部に細かなエナメル技法で絵付け
色絵金彩「ウェールズ」文碗 1875年頃
▼【1874年】レース様の細かい透彫り。トルコブルーの上絵付に金彩を施すという手間をかけた作品
色絵金彩『ウェールズ』文蜥蜴飾りティーセット 1874年 ブダペスト国立工芸美術館
▼【1881年】レース飾りに、卍模様の透彫りに金彩
金彩「ウェールズ」文龍飾りビアマグ 1881年5月30日 ブダペスト国立工芸美術館
さらに蓋裏には、柿右衛門モチーフが! どんな絵なのでしょう? それは図録に掲載されているのでぜひご覧あれ!
「透彫り」にだけに着目して時代順に追うと、技術の進化の様子が顕著にわかります。ウエールズ文の二重構造は、20年前に登場していました。生物が進化してより高い機能を獲得する様子と重なり、磁器が生物のようにも見えます。ポイントを絞って、一点集中で鑑賞してみるのも面白いと思いました。
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