大阪市に隣接する兵庫県尼崎市は、江戸時代に良質な綿を栽培し、明治から昭和戦前期にかけて紡績工業が発達した地域です。
今、尼崎市総合文化センターではその歴史を踏まえ、2人の現代作家によるテキスタイルアート展が開催されています。
「福本潮子—藍と白」

《潮騒》1979年 手織木綿/養老絞り/195㎝×182㎝
福本潮子さんの作品は、「藍染」という響きから受ける印象以上に現代的です。
展示では、初期の作品から最新作まで19点が並び、見応えがあります。油絵を学びながらも、自分に合う表現方法を模索し、「藍」色に染められた糸の透明感との出会いを機に、それ以後藍染が表現手段となったと知りました。

《水》1988年 トルファン綿/養老絞、プリーツ絞、脱色染/180㎝×180㎝
作品を見ていると、「藍染」とひとくくりにはできない奥深さを感じます。
布の軽やかさに反して制作過程は重労働であること、1つの作品の中にいくつもの技法が使用されていることなどを知り、興味を深めることができました。
また、完成した作品を前に、デザインに目が行き過ぎて、布の美しさが出ていないと思い、改めて染める部分や色などを変えて違う作品を作ったというエピソードには驚かされました。
現代的な作風から、デザインを一番に考えていると思っていたからです。
デザインという、ある意味自我の表現ではなく、布、藍という自然から生まれたものを軸としているからこそ、鑑賞する私たちの心に響きをもたらせているのかもしれません。
《太陽の道》1998年 木綿/折畳縫絞、かがり縫絞、脱色/230㎝×630㎝ 大松株式会社所蔵
「村上由季—記憶の色」
《産地染めTシャツ(菰樽)》2017年 綿(Tシャツ生地)、絹、羊毛/草木染め、縫い/60㎝×50㎝
もう一つの展示は、若手作家の村上由季さんによるものです。
草木染めで作品を制作されているのですが、「尼芋」「富松一寸豆」といった尼崎名産の伝統野菜や、「菰(こも)樽」など、尼崎ならではの材料を使用しているのが特徴的です。
学生時代、敷居の高さを感じさせるアート作品に違和感をもち「身近に感じてもらえる」ものは何かを考えたそうです。
そして彼女自身が生まれ育った尼崎のものを染料にしようと、今の制作に結び付きました。自然の色、地元愛、またアートを身近にという想いなどが混じり合い、会場は優しい空気が漂っていました。
村上由季 展示会場風景(写真提供:尼崎市文化振興財団)
福本さんの作品、そして村上さんの作品を見ていると、自分が生まれ育った町のことや歴史を、すこし振り返り考えてみたくなりました。
近年、古布を使用し制作している福本さんは、それぞれの布には風土、時代、生活、労働、歴史、人間性が見えると言われます。見た目だけにとらわれず、一歩踏み込んでみると広がる世界があることを教えてくれました。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2020年8月8日 ]
エリアレポーターのご紹介 | カワタユカリ 美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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