永青文庫の設立者である細川家16代当主・細川護立(もりたつ 1883~1970)。「美術の殿様」と称されるほど芸術に造詣が深く、十代の頃から白隠・仙厓などの禅画や刀剣を蒐集。近代絵画や東洋美術なども幅広く集め、そのコレクションは美術館の基盤になりました。

永青文庫 外観
展覧会は護立の没後50年を記念した企画。類稀なる審美眼で護立が集めた名品を一挙に展示しています。
4階展示室の会場冒頭は、特別公開の重要文化財《細川澄元像》。亀裂が入り、彩色にも剥離・剥落が見られましたが、2年に渡って修復。日本美術史上でも特筆される騎馬武者像の優品が、本来の姿を取り戻しました。

重要文化財 狩野元信《細川澄元像》 室町時代 永正4年(1507)賛[前期展示]
続いて近代日本画。護立は17歳の頃から横山大観、下村観山、菱田春草らの作品に関心を寄せ、毎年展覧会を観覧するように。24歳の時に初めて彼らの作品を買うと、その後は画家の支援をしながら交流を深めていきます。
本展では、今年、新たに重要文化財に指定された2点も展示。遊女を描いた《室君》は、近代的なやまと絵を追求した松岡映丘の出世作。故事を題材にした《豫譲》は平福百穂の代表作のひとつです。

重要文化財 松岡映丘《室君》 大正5年(1516) 熊本県立美術館寄託[前期展示]

重要文化財 平福百穂《豫譲》大正6年(1517) 熊本県立美術館寄託[前期展示]
永青文庫を代表する人気作品が、菱田春草《黒き猫》(重要文化財)。36歳の若さで亡くなった春草が、その前年に発表した作品。墨のぼかしによって猫の柔らかな毛並みが表現されています。

重要文化財 菱田春草《黒き猫》 明治43年 熊本県立美術館寄託
3階展示室に進むと、護立がコレクションを始めるきっかけになった、禅画が並びます。
護立は16歳の頃に肋膜を患い、学習院中等科を休学。長い療養生活の中で白隠の禅画に出会って感銘を受け、蒐集を開始。後にコレクションに仙崖も加えた護立は、近代禅画コレクターの草分けと位置付けられています。

(左から)白隠慧鶴《お多福粉引歌図》 江戸時代中期(18世紀) / 白隠慧鶴《布袋座禅図》 江戸時代中期(18世紀) いずれも[前期展示]
2階展示室には護立の写真や愛用品なども。護立所用と伝わる大礼服は、主に宮中儀式の際に用いられた正装。護立は1970年(昭和45年)に没すると勲一等に叙され、瑞宝章が追叙されました。

《大礼服》大正~昭和期 《勲一等瑞宝章》昭和45年(1970)
展覧会は前期が9月12日(土)~10月11日(日)、後期が10月13日(火)~11月8日(日)に開催。前・後期で展示替えが行われます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年9月11日 ]