世界史上、稀に見る平和な世の中が築かれた日本の江戸時代、人びとは様々な大衆文化を生み出した。江戸庶民は見世物や寄席などの芸能を楽しんだが、代表的な娯楽として熱狂的な人気を博していたのが歌舞伎である。
豪華な衣裳、あっと驚く舞台装置、時代物や世話物、舞踊劇といった多彩な演目など、観客を惹き付ける徹底的なこだわりが歌舞伎を一大エンターテインメントへと押し上げていった。なかでも、役者の鍛え上げられた身体による華麗な表現は、観客を虜にした。
歌舞伎は現代のようなスポーツの概念がない江戸時代に培われたが、そこには今日のスポーツに見られる基本的な運動形態の大半が含まれていた。歌舞伎役者は“アスリート”さながらの運動能力を会得し、その躍動感あふれる演技で観客を魅了し続けてきたのである。
本展は、東京オリンピック・パラリンピック開催にちなみ、日本の伝統芸能として受け継がれてきた歌舞伎の表現の中から、六方や見得、立廻り、早替り、宙乗りなど、高い運動能力が求められる演技・演出を錦絵や公演記録写真、衣裳、小道具等の資料を通して紹介する。
スポーツの視点から捉えた歌舞伎の魅力をお楽しみいただきたい。
監修:谷釡 尋徳(東洋大学 法学部 教授)