くらしのなかで、自然と手に取られるモノとはどのようなものでしょうか。
情報があふれる現代において、私たちは日々、3万回を超えるともいわれる選択を無意識のうちに繰り返しています。その一つひとつの行動の背後には、身体の感覚や記憶に根ざした潜在的な心の動きが潜んでいます。
本展では、そうした人間の根源的な動きや日常の小さな気づきに目を向け、「からだの行為で考えぬいた道具」を生み出し続けてきたPOSTALCO(ポスタルコ)の思想とものづくりに焦点を当てます。世界中の人と人とをつなぐ、もっとも普遍的な媒体である「郵便」をモチーフにして始まったPOSTALCOは、小さなメモ帳から家具に至るまで、その視点をくらしに紐づくさまざまなプロダクトへと広げ、かたちにしてきました。
「どんなデザインも、きれいに整理された完全無欠の空間からは生まれてこない」
―書籍:『霧の中の展望台』より
彼らがそう語るように、本当に意味のあるかたちは日々の混沌や違和感の中にこそ潜んでいます。その感覚に静かに寄り添いながら、いつもの視点を少しずらしてみる。すると、見慣れた風景や道具がまったく新しい意味を持ち始めます。
無印良品もまた、時代の中で「あたりまえ」とされてきたことが、必ずしも正解ではないと考えています。ほんの少し形を変えるだけで、新しい使い道が生まれること。これまで捨てられていたものにも、異なるかたちで活用の可能性があること。「常識」を問い直しながら、視点を少し変えることで生まれる新たなくらしの整え方を提案するものづくりを続けてきました。POSTALCOと無印良品のものづくりには、どちらも日々のくらしのなかでの「気づき」を原点とする共通点があります。
時代がどんなに変わっても、人のくらしや幸せの本質は変わりません。自然や万物とのつながりを感じながら、健やかで満ち足りた日々をいかに築いていけるか。本展が、くらしの中に潜む心地よさや、「見かたを少し変えてみる」ことで広がるささやかな喜びのヒントとなることを願っています。