人々の日々の暮らしや営みとしての日常は、絵画、あるいは美術作品の主題として、15世紀フランスのランブール兄弟による『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』や日本の『洛中洛外図屏風』に観るように、洋の東西を問わず、古くから扱われてきました。年中行事や土地の習俗といった人間の日常を描くことに、画家たちが熱心だったのか、クライアントの要求であったのか、それはわかりません。このような日常を描いた絵画を日本では風俗画として、また西欧では、肖像画、風景画、静物画、風俗画(ジャンル)として確立していき、特に西欧では、19世紀に入り、ヘーゲルが「絵画と世俗・日常との完全な融合」という事態にまで至りました。このように密接に結び付いていた美術と日常の関係が、現代日本において、いかなる変貌を遂げつつあるかということを本展で検証していきます。
今回紹介するのは、目を背けたくなるほど、日本的で、土着性が強い作品でありながら、日本独特の風土的湿潤さを払拭し、どこか乾いた清々しささえ感じさせる会田誠、身近な記憶の断片をたどりながら、独自の内省的世界を構成していく大谷有花、倒錯的な肖像のなかに、表象性と性差が入り混じる作品を発表している鷹野隆大、そして、さりげない風景の中に、欲望と懐疑というイメージを喚起させる平川典俊、という4人の作家です。現代を常に挑発しつづけていく彼らの作品と、現代日本の美術と日常の関係を考察していきます。