マティスの芸術とその影響　—ボナール、ドラン、ピカソらとともに—

　1869年、フランス北部のル・カトー・カンブレジに生まれたアンリ・マティスは、今年で生誕140年を迎えます。絵画の可能性を問い続けたマティスの作品はその領域を大きく押し広げ、現代に至る芸術に大きな影響を与えました。 　マティスは20歳の病気療養中に絵画と出会い、画家としての道を歩み始めます。はじめ伝統絵画にもとづく暗い色調で制作しますが、セザンヌや新印象主義の影響を受け画面は次第に明るくなり、1905年には「フォーヴ」の画家として広く知られるようになりました。その後、1908年頃に始まる実験的時代には平面的な絵画を展開、ニースに制作の拠点を移す1920年代には再び柔らかな色調を取り入れていきます。《エトルタ断崖》や《赤い屋根のある風景》などの風景画には、中間色や黒の美しい調和を見出すことができます。また、ニース時代に描かれた《読書する女性》や《鏡の前に立つ白いガウンを着た裸婦》などの女性像では、人体の陰影を鮮やかな色彩の中へと息づかせています。1930年頃からはより単純化への志向を見せ、《アネリーズの肖像》のように直接的な手段としてデッサンも多く描きました。また晩年にはグワッシュで彩色した切り紙絵を制作、その手法は挿画本などにも展開されました。