人々の日常を題材にした静謐な風俗画を描いた、フェルメール。世界中で高い人気を誇り、日本でもその名を冠した展覧会が何度も開催されています。
実はフェルメールは寡作という事もあり、少し前まではそれほど人気がある画家ではありませんでした。1675年に没した後は、徐々に忘れられた存在に。再評価が始まったのは19世紀の事で、世界的なブームになったのは、1995~96年にアメリカとオランダで開催された展覧会からです。
日本におけるブームは、2000年の「フェルメールとその時代」展から。大阪市立美術館のみで開催され(東京に来なかったのも驚きです)、1会場で60万人を動員。その人気は決定的なものとなり、フェルメールの作品を目玉にした展覧会が相次いで開催されるようになりました。
東京では2008年に7作品を集めた「フェルメール展」が開催され(東京都美術館)、93万人が来場。今回はそれを上回る9作品という事で、まぎれもなく「日本美術展史上最大のフェルメール展」といえるでしょう。
今回の展覧会は6章構成。5章まではジャンル別で、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンら、オランダ同時代の絵画が紹介されます。
そして、いよいよ「フェルメール・ルーム」へ。正真正銘、右も左もフェルメール。ここは本当に日本でしょうか。
《マルタとマリアの家のキリスト》は、最初期の作品のひとつ。現存するフェルメール作品の中で最も大きく、マルタ・マリア姉妹の家をキリストが訪れた場面です。幅広のタッチは、後年の作品とはだいぶ印象が異なります。
《ワイングラス》は、日本初公開。初期から中期に至る過渡期の作品です。室内で、男性に勧められたワインを飲む女性。古楽器のリュートは、愛の暗示。ステンドグラスの窓にある、馬具を持つ女性は、欲望の統制を意味しており、女性への警告の意図が込められています。
《牛乳を注ぐ女》は、フェルメール作品の中でも名高い一点。レンブラント《夜警》とともに、オランダ・アムステルダム国立美術館の目玉といえる作品です。簡素な部屋で、静かに牛乳を注ぐメイド。パンや籠など、質感の表現は見事です。日常の一場面ですが、足元のタイルのキューピッドなど、寓意的な要素も。絵の解釈について、さまざまな意見が出ています。
なお《取り持ち女》の展示は、2019年1月9日(水)から2月3日(日)までの展示。それまで宗教画などを描いていたフェルメールがはじめて描いた風俗画とされています。また《赤い帽子の娘》は12月20日(木)までの展示となります。
混雑確実という事もあり、東京展は珍しい「日時指定入場制」となりました。1日を6つの時間枠に区切り、その間に入場するというもので、「入場までに3時間待ち」にはなりません。「入替制」ではないので、退場時間は自由です。当日日時指定券は前売日時指定券に余裕があった枠しか販売されないので、ネットでの事前入手を強くお勧めいたします。
2019年2月16日(土)からは、大阪市立美術館に巡回。大阪展ではフェルメール作品6点となり、東京展とは一部、作品が異なります。《恋文》は大阪展のみの出展です。フェルメール好きの方は、関西遠征も計画しておいてください(大阪展は日時指定ではありません)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年10月4日 ]