大徳寺の塔頭(大寺に附随して建てられた小院)として、慶長11年(1606)に建立された龍光院。観光目的の拝観を禁じており、数々の寺宝を一般の方が目にする事は、ほとんどありませんでした。
龍光院の小堀月浦住職の英断もあって、ついに実現した本展。約200件(前後期通じて)を一挙に公開する、前代未聞の試みとなりました。
龍光院の実質的な開祖は、江月宗玩(1574-1643)です。武将の黒田長政が父・孝高(如水、官兵衛)を弔うために建立しました。江月は堺の豪商・天王寺屋の出身であり、龍光院には天王寺屋ゆかりの名宝が数多く伝わります。
では早速、MIHO MUSEUMの北展示室へ。大きな写真パネルで、龍光院に入っていくような雰囲気。気分が盛り上がります。
お目当ての国宝《曜変天目》は、会場の前半に登場します。展示室に一碗だけが展示されており、時計回りにまわって鑑賞する事が可能です。
曜変天目について、おさらいをしておきましょう。独特な斑紋と、見る角度によって変化する光彩が特徴で、「器の中に宇宙が見える」とも言われる美しい茶碗です。
宋時代につくられましたが、中国には現存せず、日本に3碗あるのみ。静嘉堂文庫美術館蔵、藤田美術館蔵、そしてこの龍光院蔵で、いずれも国宝に指定されています。
他の2碗は徳川家に伝わった後、明治時代に所有者が変わりましたが、龍光院蔵は天王寺屋から伝わって以来、400年以上、同じ場所で守られています。
展覧会のビジュアル写真では青く輝いている曜変天目ですが、こちらは自然光で撮影したもの。実は、曜変天目の美しい輝きを美術館で見せるのは難易度が高いのですが、展覧会では綿密な照明デザインにより、見事な輝きをお楽しみいただけます。
曜変天目以外では、まず絵画に注目。江月が優れた審美眼を持っていたため、集められた作品は質の高いものばかりです。長谷川等伯や狩野探幽など、重要な画家の作品も数が多い事も特筆されます。
歴史に詳しい方は、江戸時代初期の「紫衣事件」をご存じかもしれません。高僧の象徴である紫衣は、朝廷が勅許して与えていましたが、徳川幕府が制度を改革。幕府と朝廷の権威が逆転した、重要な出来事です。
幕府に抗議した僧侶のひとりが江月。会場には、紫衣事件にちなんだ資料も展示されています。
眼福の極みといえる展覧会ですが、図録も570ページ超、重さは約2kgという豪華版。作品解説やコラム・エッセイはもちろん、龍光院の日々を捉えた美しいグラビアも見ものです。
なお「曜変天目」と認識された碗は国宝の3碗以外もあり、うちひとつはMIHO MUSEUM蔵。こちらは南展示室で展示されています。コレクション展でお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年3月20日 ]
※会期中に一部展示替えがあります