2016年から、毎年開催されている「はじめての古美術鑑賞」。この項でも、「絵画の技法と表現」(2016年)、「紙の装飾」(2017年)、「漆の装飾と技法」(2018年)と、ご紹介してきました。
今回は、絵画のテーマについて。描かれたモチーフを通じて、絵の内容を読み解きます。
墳墓を彩る採色壁画など、黎明期にはプリミティブな表現に留まっていた日本の絵画。6世紀の仏教公伝が、大きな転換期になりました。仏教絵画は、日本の絵画表現を牽引していく事となります。
飛鳥・奈良時代の絵画は、ほとんどが仏教関係です。代表的な作例が、下段に経文を書写し、上段に対応する絵を描く「絵過去現在因果経」(絵因果経)。慶忍・聖衆丸筆による作品は、奈良時代のものを鎌倉時代に写したものです。
第1章は「物語絵の世界」。平安時代も仏教絵画は盛んに描かれますが、平安時代後期になると、源氏物語や伊勢物語など王朝文学をテーマにした物語絵巻が登場します。
土佐光起筆《源氏物語朝顔図》は、雪玉遊びの童女と、男女の組み合わせで、源氏物語「朝顔」という事がわかります。童女の衣裳など、細部の表現が見ものです。
第2章は「禅林の人物画と神仙たち」。鎌倉時代には禅が広まり、禅宗関連の人物画が盛んに。さらに鎌倉時代後期(13世紀)には、画僧も活発に活動します。
《寒山拾得図》を描いた雪村周継も画僧です。寒山と拾得は、伝説的な風狂僧。寒山は巻物、拾得は箒を持った姿で描かれます。
第3章は「中国の故事人物画」。室町時代前期には、五山文学(禅宗寺院で行われた漢文学)が流行。僧が理想とする、中国の文人を描いた絵画が描かれるようになりました。
詩情豊かな《赤壁図屏風》は、谷文晁の作です。切り立った崖、舟の上の人、月、鶴、の組み合わせで、北宋の詩人・蘇東坡の「赤壁賦(せきへきのふ)」という事が分かります。
第4章は「自然へのまなざし」。絵画のテーマとしては、普遍的といえる草花ですが、吉祥図として描かれる場合もあります。茄子や根菜は、豊穣や子孫繁栄のシンボルです。
花の絵も、菊・蓮・梅・蘭が描かれているなら、中国の文人を意味する「四愛図」です。4種の花は、それぞれ中国の高名な4人の文人(陶淵明、周茂叔、林和靖、黄山谷)が愛した花々。四愛図は、障壁画も含め数多くの作例が見られます。
展覧会のメインビジュアルは《周茂叔愛蓮図》ですが、実物を見ると、描かれた周茂叔は指先ほどの大きさ。拡大してもきちんと表情が分かるように、作品に対する作者の熱い思いが感じられます。
なお、同時開催中の展示室6「雨中の茶の湯」では、この企画展に登場した画題の作品が、3点含まれています。復習もかねて、お楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年5月24日 ]